平成廿捌年 自選 卅句

てのひらに享くるしづけさ緑さす

初夏よ天の余白をみ霽かす

春昼や餡麺麭わりてあはひあり

おほぞらに翅を忘るる蛙かな

ふらここや嘗て女神の空を蹴ゆ

狛犬の舐めたる飴や宵の夏

嘶えける神馬の割きし二つ星

天狼や五十八面体の聲

狐火や客席ひとつだけの劇

煮凝や寝れども覚めぬ白昼夢

踏切の遅るる音や秋日影

びいだまのうつさぬ息や冬暮光

春宵や片鎌槍の螺鈿の柄

夏の夜やイヴはアダムの浮遊肋

王墓なる壺中の天やましら酒

人類の錆びそむるこゑ冬銀河

ごきぶりや新聞紙てふ聖遺物

御破算で願う行方や初景色

割らぬとも個包装たる淑気かな

薫風や枕木を踏む君の影

からつぽの珈琲啜る青嵐

少年の欹つ耳や夏つばめ

ふとももに絆創膏や冬浅し

愛日や噛みしめてゐる涙巻

かげろふや徒歩七分の父の家

絵双六三親等を統べにけり

義父並ぶる花札厚し盆の月

夏近し通帳を繰る匣のおと

組織図に線を書き添ふ無月かな

稟議書の額づく判や室の花


濃口泗寸 4sun.jp  伊藤 衒叟