毎日俳壇 | 小川軽舟選 2018年

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年11月26日

◎ 漫研の仲間散り散り冬の星 玉野市 松本真麻
【軽舟先生評】「仲間散り散り」が漫画研究会らしい。遠い冬の星にきらきらしていた若き日を思う。

○ 鵙咆〔もずた〕ける鵙には明日がなきごとく 防府市 倉重遥代
【軽舟先生評】鵙はなぜあんなに鋭い声で叫ぶのか。「明日がなきごとく」が作者独自の見方でおもしろい。

二次会のはねて赤坂十三夜 東京 喜納とし子
膝崩す巫女の会話や神の留守 館林市 寺内和光
オリーブの島の分校小鳥来る 寝屋川市 数藤茂
をさなごが汽車に手をふる紫苑かな 東京 井上茅
長靴を洗ひ勤労感謝の日 千葉市 新原藍
手話はづむベンチの少女冬ぬくし 伊万里市 田中秋子
稟議書を突き返されし夜寒かな 志木市 谷村康志
天高く港にジャズの響きあり 北九州市 大山勝
二色ペンかちかち鳴らす一葉忌 笠間市 伊藤邦夫
秋の暮空き家になりし隣家かな 三重 瀬川令子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年11月19日

◎ 新雪をかづけば近し八ケ岳 国分寺市 伊澤敬介
【軽舟先生評】一夜の雨があがったら山頂は新雪に輝いている。澄んだ空気が八ケ岳を間近に見せる。

○ 肩車して父と子の秋まつり 八街市 山本淑夫
【軽舟先生評】子供はすぐに大きくなる。それでもこの肩車の高さはずっと覚えていることだろう。

最終のバス待つ駅の良夜かな 東久留米市 矢作輝
爽やかや鳶のズボンにペンキ撥ね 大阪 池田壽夫
天高し若き宮司の白袴 四日市市 四本知子
秋暑し雲なみなみとビルの窓 大阪市 佐竹三佳
遠き雲遠き思ひ出菊日和 鹿児島市 大島正晴
越後路の宿の湯あがり新走〔あらばしり〕 神奈川 岡本一夫
山道に蝶は日を恋ふ草の花 神戸市 中林照明
山の端の仏堂一宇鰯雲 周南市 加藤戛子
発車まで五分の停車金木犀 堺市 柞山敏樹
秋深し赤く艶めく貯金箱 さいたま市 奈須民恵

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年11月13日

◎ 冬帽子鏡にほめてもらひけり 大分市 猪原アヤ子
【軽舟先生評】新しく買った帽子。傍にほめてくれる人がいなくても、鏡に映せばこんなに似合っている。

○ 衣被〔きぬかつぎ〕ながき年金ありがたし 京都市 小川舟治
【軽舟先生評】衣被をつまんでの晩酌か。年金暮らしも長くなった。保険料の元は十分取れたようだ。

秋草や仕事がたのし週二日 横浜市 牧野晋也
小鳥来るショーウィンドウの旅鞄 金沢市 青木英昭
ちちろ鳴く電球暗き味噌蔵に 稲沢市 杉山一川
海峡をねめる王陵秋桜 神戸市 大岩正彦
年下の友の転職秋夕焼 鴨川市 冨川康雄
真夜中の映画の終はり火恋し 千葉市 木村史子
色変へぬ松托鉢に影作る 和歌山市 西山純子
邯鄲〔かんたん〕や釦〔ぼたん〕たまりし小抽斗〔ひさだし〕 郡山市 佐藤祥子
栄転も単身赴任竹の春 長浜市 音羽豊
夜学の灯消えて校庭ちちろ鳴く 新座市 菊地良治

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年11月5日

◎ 秋の雨夕刊の来てあがりけり 坂東市 林秀峰
【軽舟先生評】平凡だがしみじみとした一日の終わり。雨に冷えた空気が広げた夕刊に流れてくる。

○ 献血車に馬券売場に秋の雨 明石市 北前波塔
【軽舟先生評】場外馬券売場の前に停めた献血車が人助けを訴える。人間社会の縮図のような街の風景。

馬肥ゆる牧にはためくシャツ十枚 真岡市 下和田真知子
落鮎やかつて近江に都あり 龍ケ崎市 本谷英基
木槿〔むくげ〕咲く区立図書館休館日 東京 四倉ハジメ
菊月の母の遠忌や子も老いて 東京 中島孝子
舟を漕ぐ古書肆の主人秋うらら 北本市 萩原行摶
人替はり職場の窓に小鳥来る 松阪市 奥俊
朝寒や手櫛に直す髪白し 吹田市 坂口銀海
踊り場は嵌め殺し窓小鳥来る 新潟市 鍋谷彰子
栞挿す終着駅や秋麗 横浜市 延沢好子
赤い羽根同性愛の子の胸に 八幡浜市 三浦将祟

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年10月29日

◎ 梨剥けば卓に水辺のかをりかな 門真市 田中たかし
【軽舟先生評】食卓で水気たっぷりの梨を剥く。「水辺の香り」の思い切った表現に無理がない。

○ 良寛のいろはの文字や草の花 東京 東賢三郎
【軽舟先生評】良寛の書のかな文字には味がある。なるほどあれは草の花の風情なのだと思う。

宿の名の古風うれしき良夜かな 熊本市 加藤いろは
揃ひたるいつせーのーせ秋の空 秋田市 鈴木華奈子
コンビニの明るき夜や蕎麦の花 日南市 宮田隆雄
青銅の文鎮ひとつ卓の秋 国分寺市 越前春生
廃線の駅舎にカフェや秋の雲 福岡市 礒邉孝子
日直の号令秋気澄みにけり 水戸市 砂金祐年
アイロンの蒸気の音や秋の夜 神戸市 松田薫
空青し一家総出の冬支度 常滑市 沢田正司
月代〔つきしろ〕や一両電車客ひとり 島根 鈴木律夫
帰り来て月のさし入る通し土間 八潮市 谷川聚一

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年10月22日

◎ 絵の音に聴き入る秋の美術館 四條畷市 植松徳延
【軽舟先生評】絵は見るだけではない。絵に耳を澄ます。秋の静けさの似合う句。

○ 農を継ぐ決意に掬〔すく〕ふ今年米 嘉麻市 松井春光
【軽舟先生評】父の作った新米を手に掬う。家の農業を継ぐ決意を固めた今、あらためて米が尊く思われる。

秋晴や輪ゴムで飛ばすグライダー 東久留米市 夏目あたる
弔ひへ遠出の朝の霧深し 龍ケ崎市 清水正浩
羽搏〔はばた〕かぬ鳶の輪二つ秋うらら 島根 高橋多津子
弔電のひろき余白や秋灯〔あきともし〕 四日市市 伊藤衒叟
参道の日向飛び交ふ秋の蝶 奈良 高尾山昭
いつまでも母の小言やすがれ虫 土浦市 今泉準一
猫寄ればともにめし食ふ秋の昼 小林市 牧野尚幸
さつくりと林檎を食〔は〕めば海青し 沼津市 川井大次郎
秋の夜レコードの針そつと置く 京都市 古川麻美子
黄昏の小さき庭も虫時雨 新庄市 岸啓二

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年10月15日

◎ 秋めくや太陽の香も土の香も 青森市 小山内豊彦
【軽舟先生評】秋のさわやかな日差しに「太陽の香」を感じたのが新鮮だ。大地を踏みしめる喜びがある。

〇 早退の子の道草や草虱〔くさじらみ〕 みよし市 稲垣長
【軽舟先生評】学校を早退したのにまっすぐ家に帰らない。服に草虱をつけた様子がどこか寂しげだ。

竹林へ霧雨白く流れけり みやま市 紙田幻草
鵙〔もず〕の贄〔にえ〕またも迷惑電話なり 奈良市 梅本幸子
廃船に波は届かず蘆の花 加古川市 中村立身
開かれぬ鰥夫〔やもめ〕の雨戸牽牛花 千葉市 畠山さとし
裏窓の古き机やちちろ鳴く 明石市 岩田英二
校庭のチャイム高らか涼新た 八尾市 岡山茂樹
敬老日妻の眠りを妨げず 神戸市 中林照明
帰省子にふるさとの軒低くあり 長門市 半田哲朗
ペット屋の値引の札や秋暑し 那須塩原市 柴田道子
鉄瓶の滾〔たぎ〕る朝餉や佐渡の秋 東京 鈴木英五郎

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年10月8日

◎ はしご酒まづ一軒目秋の暮 西尾市 岩瀬勇
【軽舟先生評】秋の夜長のまだ入口。伝統的な秋の暮の季語に、はしご酒の俗をぶつけて楽しい句になった。

〇 B面のありしあの頃鰯雲 東京 小栗しづゑ
【軽舟先生評】レコードのB面がわかる世代もいずれ少数派になる。自分の生きた時代への愛惜。

乗換へを待つ空港の夜長かな 兵庫 小林恕水
開梛〔かいぱん〕のひときは高き今朝の秋 奈良市 斎藤利明
家計簿をつけ秋涼の夜静か 秋田市 西村靖孝
浜茶屋のたたまれてゐる帰燕かな 神戸市 木内美恵子
弟は疾〔と〕くに逝きけり青瓢〔あおふくべ〕 上尾市 中野博夫
避暑地より届きし残暑見舞かな 神奈川 中島やさか
ショッピングセンター廃れ虫しぐれ 上尾市 中久保まり子
菊日和明治天皇行幸地 名古屋市 浅井清比古
図書館の高き天井夏の午後 木更津市 木嶋蛍
山寺の月の客なく更けにけり 周南市 加藤戛子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年10月1日

◎ ブラインド越しの秋日や掌〔たなごころ〕 津市 渡邊健治
【軽舟先生評】最後に置いた掌がよい。秋の日にかざして掌を見つめる。そこに静かな内省がある。

〇 焼香に制服の列木下闇 市川市 五木田暁美
【軽舟先生評】学校の制服なのだろう。説明や感想をはさまず、ただ季語だけを添えたのがよかった。

陵〔みささぎ〕の松の濃〔こ〕みどり今朝の秋 香芝市 矢野達生
稔田〔みのりだ〕の中の古墳や群雀〔むらすずめ〕 市原市 稲澤雷峯
雨に明け雨に暮れたる厄日かな 和歌山市 花谷康道
鰯雲熾火〔おきび〕のいろに暮れのこる 高山市 直井照男
賞罰の無き一生や稲の花 羽生市 小菅純一
遠泳や水平線の近寄らず 町田市 枝澤聖文
新米を研ぐふるさとの小〔ち〕さき母 佐倉市 小池成功
商店街閑散として残暑かな 志木市 谷村康志
水打つて花見小路に灯のともる 奈良市 上田秋霜
石敷の長き門前秋暑し 秋田市 神成石男

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年9月24日

◎ しんしんと日は天頂に蟻の道 嘉麻市 堺成美
【軽舟先生評】天頂へ登る太陽と地面に列をなす蟻。大と小の両極の対比で世界の不穏な静けさを捉えた。

〇 風荒〔すさ〕ぶ朝の光や白〔しろ〕木槿〔むくげ〕 津市 渡邊健治
【軽舟先生評】目覚めて外を見遣ると朝から強い風が吹いている。ある秋の日の始まりが確かに感じられる。

檀家減る貧乏寺や竹の春 藤沢市 田中修
虫干やまづ天金の一書より 日高市 落合好雄
炎天や家裁に入る乳母車 東京 関口昭男
星月夜二人暮しの灯の一つ 豊田市 内山幸子
米を研ぐ二百十日の寺男 一宮市 渡辺邦晴
バス降りて一本道の帰省かな 豊田市 小澤光洋
石投げて何呼び戻す秋の海 愛西市 坂元二男
布巾干す昼の豆腐屋赤まんま 東京 木内百合子
虫の音に上着一枚羽織りけり 東京 菊池和正
パソコンを敬し遠ざけ草の花 行橋市 安藤東三子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年9月17日

◎ 駅弁の甘き田麩〔でんぶ〕や秋の空 東京 種谷良二
【軽舟先生評】飯に散らした桜色の田麩がなつかしい。澄んだ空に照り映えて、旅情も一気に高まりそうだ。

〇 炭田の遠き栄華や虫すだく 福岡 村岡昇藏
【軽舟先生評】黒いダイヤと呼ばれた石炭で栄えたのも遠い昔。街の喧騒は静かな虫の音に替った。

はてしなし円周率と蟻の列 狭山市 平野和士
青空の暮れて星空虫時雨 福岡市 三十田燦
新涼や革砥光らす理髪店 川越市 峰尾雅彦
夏座敷榧〔かや〕七寸の碁盤据ゑ 大村市 森宏二
新涼やコーヒーミルの挽き心地 水戸市 砂金祐年
青北風〔あおぎた〕や原付で往く防波堤 鈴鹿市 岩口已年
酒しぼる締木の艶も秋はじめ 吹田市 末岡たかし
虫の音の庭や巨人の負け試合 調布市 田中泰彦
新涼やモーツァルトとミルクティー 真岡市 下和田真知子
のうのうとひと日素顔や瓜の花 新潟市 鍋谷彰子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年9月11日

◎ 読み返す介護日誌や盆の月 長野市 中里とも子
【軽舟先生評】過ぎてみれば介護の日々もなつかしい。盆の月を見上げる穏やかな心持ちが伝わる。

〇 向日葵や次女はさつさと嫁に行き 直方市 瓜生碩昭
【軽舟先生評】長女を嫁にやるのに苦労を重ねたのだろう。それに対して次女がいかにも次女らしい。

夕顔や客待ち顔の料理店 鎌倉市 高橋暢
普段着の舞妓連れ立つ夜涼かな 寝屋川市 数藤茂
川風を通す二階や遠花火 東京 齋木百合子
夏木立湖畔に沿つて道長し 吹田市 葉山芳一
帰省子に乗合バスは日に二便 香芝市 矢野達生
雨音に寝そびれてをり秋初め 東大阪市 北埜裕巳
大風に落とさるるなよ鴉の子 鹿嶋市 津田正義
虹立つや若き夫婦のベビーカー 福岡市 田中芳洲
緑蔭に吸ひ込まれゆく子らの声 秋田市 榎真美子
はんなりと少し傾く秋簾 神戸市 藤田明子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年9月3日

◎ 冷麦は子供と食べるのが楽し 我孫子市 矢澤準二
【軽舟先生評】夏休みに遊びに来た孫と過ごす時間が目に浮かぶ。色のついた数本のある冷麦が似合う。

〇 歯を抜かれ酷暑の街を戻りけり 岡山市 三好泥子
【軽舟先生評】今年の夏はまさしく酷暑。そんな時に歯を抜かれて帰ったのは、さぞ難儀なことだったろう。

片陰やデイサービスの車待つ 豊橋市 野副昭二
たまりゆく求人雑誌風死せり 下関市 福永浩隆
テレビ消し祭り囃子を遠く聞く 米子市 永田富基子
夕立やルオーを飾る喫茶店 東京 種谷良二
巡礼の鈴の音澄める蓮の花 藤沢市 田中修
焼酎やものの臭ひのガード下 つくば市 村越陽一
薫風や保線の人の怒り肩 奈良市 石田昇己
黄菅〔きすげ〕咲くヒュッテに着くや黄昏〔たそが〕るる 奈良 中川潤二
行く夏や臥せりがちなる妻の胸 横浜市 杉山邦夫
水打つて開店五分前となる 北見市 根本敦子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年8月27日

◎ 千年の森光年の星涼し 明石市 久保いさを
【軽舟先生評】深い原生林に宇宙から星の光が届く。千年の時間と光年の距離、大きな時空を捉えた句だ。

〇 ねこじやらし猫も子供も減りにけり 東京 神谷文子
【軽舟先生評】少子高齢化の進む地域社会。空き地にねこじゃらしが生える。「猫も」がせつない。
三伏〔さんぷく〕や神馬は顎門〔あぎと〕ぐいと引き 岡崎市 金田智行
朝焼の雲一筋や原爆忌 市原市 稲澤雷峯
けさ秋のシーツの白き目覚めかな 由利本荘市 松山蕗州
引き潮にかはる波音月涼し 竹原市 桜井澄子
格子戸の間口きつかり水を打つ 東京 たなか礼
大寺の土塀の長し片陰も 大阪市 山田喜美
炎昼や梵字に強くとめはらひ 尼崎市 吉川佳生
翻る暖簾これより真夏なり 秋田市 鈴木華奈子
竹筒に太き節あり冷し酒 青森市 小山内豊彦
振り向けば白き病棟青田道 千葉 大須賀久大

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年8月20日

◎ 太陽の下で働き冷奴 羽生市 小菅純一
【軽舟先生評】太陽の下で汗を流して働く。風呂上がりの一杯と冷奴のうまさはサラリーマンには分かるまい。

〇 かたはらの妻の寝息よ夜の秋 四日市市 伊藤衒叟
【軽舟先生評】妻が隣ですこやかな寝息を立てていることに心が安らぐ。網戸から涼しい夜風が入る。

打水や開店前の生花店 北九州市 宮上博文
ナイターや三塁手まだ夕日中 神戸市 松田薫
終戦日ピン札に指切りにけり 東京 穂曽谷洋
忘れ物思ひ出したり昼寝覚 東京 松岡正治
掃苔や手庇〔てびさし〕に見る東山 大阪市 佐竹三佳
楠の木の影こんもりと月涼し 富士宮市 渡邉春生
タンカーの船長室の青簾 北本市 萩原行博
朝涼や電気カミソリ咽〔のど〕走る 福岡市 三十田燦
工場からいつもの響き風死せり 東京 月城花風
窓を開け一人暮らしの天花粉 相模原市 はやし央

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年8月14日

◎ 貧乏に妻と生きてや百日紅〔さるすべり〕 東京 辺見狐音
【軽舟先生評】贅沢はさせてやれなかったが、妻と無事に生きてきた。百日紅の明るさが人生を肯定する。

〇 父の日や父の戒名読み直す 秋田市 神成石男
【軽舟先生評】すっかり忘れていた父の戒名。位牌を読み直してみると亡くなったときの記憶も甦る。

これまでと畳む釣竿日の盛 高山市 直井照男
夜店守千円札の皺伸ばす 四條畷市 植松徳延
古書店の主人顔出す梅雨晴間 東久留米市 矢作輝
墓石に雲の影来て蜥蜴〔とかげ〕の子 千曲市 中村みき子
飲みさしのジンジャーエール明易し 武蔵野市 水田隆
バスを待つ幽霊坂の蝉時雨 福岡 村岡昇藏
雨雫のこる棚田やほととぎす 市原市 稲澤雷峯
無駄足となりし商談汗拭ふ 加古川市 中村立身
裸にて将棋指しゐる下宿人 福岡市 林〓
受診日の飛行機雲や百日紅 鴻巣市 菅野捷子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年8月6日

◎ 礼状はその日のうちに日日草 大阪 池田壽夫
【軽舟先生評】今日のことは明日に延ばさない。生真面目な人柄と日日草の取り合わせに味がある。

○ 夕立にてんやわんややあめんばう 東京 山口照男
【軽舟先生評】大粒の雨に翻弄されるようなあめんぼう。まさに「てんやわんや」と見えたのだ。

注射の子夏野に逃げてしまひけり 水戸市 砂金祐年
汗光る路上ライブの歌手と客 土浦市 今泉準一
降りしきる朝顔市の人出かな 愛西市 小川弘
夢の友問ひに答へず明易し 春日市 林田久子
ナイターに行こか暖簾を潜〔くぐ〕らうか 苫小牧市 吉田京子
枝葉打つ幽かな雨の夏座敷 羽生市 岡村実
九十九〔つづら〕折り上る峠の合歓(ねむ)の花 厚木市 石井修
気兼ねなき勉学の夜の裸かな 富山市 藤島光一
松葉杖つきて少年夏終る 国分寺市 伊澤敬介
茅葺きの古刹の破風〔はふ〕や夏の蝶 にかほ市 金民子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年7月30日

◎ 梅雨の客空を見上げて帰りけり 坂戸市 沼井清
【軽舟先生評】雨があがっていたのだろう。見送る主人と帰る客。よい時間を過ごしたようだ。

○ 祭笛聞きつつ酢飯さましをり 深谷市 酒井清次
【軽舟先生評】祭の高揚感の中での食事の支度。色とりどりのちらし寿司のできあがりが目に浮かぶ。

蛸壺のあんぐり乾く晩夏かな 神奈川 新井たか志
向日葵やバックミラーに安房の海 東京 喜納とし子
プロペラ機飛び発つ茅花〔つばな〕流しかな 和歌山市 西山純子
夕蝉や勤務シフトにまだ慣れず 玉野市 松本真麻
夕空を行く飛行機や梅雨上がる 東京 松嶋光秋
扇風機たたきに置かれ町工場 鈴鹿市 岩口已年
水を打つ夕風を呼びあつめつつ 明石市 岩田英二
松越しに見る富士近し五月晴 神戸市 田代真一
走馬燈黒髪に艶出でにけり 横浜市 まつら佳絵
旅人の往き来途切れて水を打つ 奈良市 奥良彦

◆ 毎日新聞 小川軽舟・選 2018年7月23日

◎ 大声に蠅虎〔はえとりぐも〕の落ちにけり 福知山市 阿辻豊
【軽舟先生評】部屋の壁を這っていたハエトリグモ。大声に驚いたわけでもあるまい。偶然のおかしさ。

○ 砕石のコンベアー停め昼寝かな 東京 東賢三郎
【軽舟先生評】砕石場の休憩時間の昼寝である。さっきまでの轟音が嘘のような静けさが心地よい。

駅前の惣菜店の日除かな 町田市 友野瞳
街角の公衆電話明易し 富士宮市 渡邉春生
梅雨の雷地蔵の軒にバス待てり 今治市 越智ミツヱ
虹くぐり船着く昼の港かな 長崎市 田中正和
胸の憂さ払ひ行きたり青嵐 つくば市 樽本いさお
ひもすがら灯す書斎や五月闇 奈良 久野多恵子
紫陽花や老いて湯島の男坂 古賀市 大野兼司
手花火の消えて子供ら闇に失す 東京 ホヤ栄一
雨安居〔うあんご〕やうつぼ柱の鳴るばかり 大阪市 中村一志
白南風〔しらはえ〕や夕餉の豆腐ぶら下げて 高槻市 津田英子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年7月16日

◎ 雨戸繰る音に目覚めし帰省かな 横浜市 宮本素子
【軽舟先生評】今は雨戸のないマンション暮らし。がたぴし響く雨戸の音に、実家に帰ったことを実感する。

○ 夕焼や砂浜消えて半世紀 堺市 野口康子
【軽舟先生評】高度成長期に埋め立てられた砂浜。子どもの頃に遊んだ海が今でも幻のように目に浮かぶ。

いつまでも職場の若手ビール注ぐ 明石市 北前波塔
柚の花や宿の夕餉を待つ時間 東京 氣多恵子
ででむしや向ひは男所帯なり 東京 神谷文子
ダービーの孤注の連れに男時〔おどき〕かな 京都市 小川舟治
雨止んでかんかん照りや金魚草 町田市 枝澤聖文
かつて愛ありし西日の四畳半 川越市 峰尾雅彦
梅雨空に明けの明星観覧車 藤沢市 一色伽文
町内のここも廃屋夏落葉 宇部市 谷藤弘子
街宣のヘイトスピーチ金魚死す みよし市 稲垣長
山門に向ひ合ひたる甘酒屋 鎌倉市 高橋暢

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年7月10日

◎ 母と修〔しゅ〕す父の遠忌〔おんき〕や百日紅 小田原市 守屋まち
【軽舟先生評】父が死んで長い年月が過ぎた。あと何年母と一緒に父を偲べるだろう。百日紅が目にしみる。

○ 次に会ふ時は遺影か額の花 国分寺市 越前春生
【軽舟先生評】見舞いに行った相手はもう長くはなさそう。次は遺影という突き放したような覚悟がつらい。

朝からのかんかん照りよ冷し酒 東大阪市 三村まさる
新聞紙詰めて干す靴立葵 神戸市 松田薫
終電の次は始発や明易し 東京 種谷良二
稜線の蒼き日暮れや蛍川 神奈川 新井たか志
眉宇にある少年の素志夏来たる 郡山市 佐藤祥子
図書館へ一番乗りや夏帽子 長野市 中里とも子
初夏の稚魚かがやける汽水域 尼崎市 吉川佳生
紫陽花や後手つける古畳 羽生市 小菅純一
噴水やいつも挑戦する気持 熊本市 江藤明美
春昼のトランペットに貫かる 柏市 藤好良

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年7月2日

◎ 傘売場ぱつと明るき梅雨〔つ〕入〔い〕りかな 東京 関口昭男
【軽舟先生評】梅雨に入った百貨店に色とりどりの傘が並ぶ。雨も楽しみようだと教えてくれる明るさ。

○ 美術館涼し魁夷の森蒼し 鯖江市 木津和典
【軽舟先生評】美術館で東山魁夷の森の絵の前に立つ。心身ともにひんやりと静まりかえる心地がする。

働ける今が大事や梅漬ける 日高市 落合清子
父の日や夜勤へ向かふ父の背〔せな〕 船橋市 村田敏行
タンカーの接岸すぐに水母〔くらげ〕寄る 和歌山市 岬十三
名刺なき手持ち無沙汰やソーダ水 松本市 上月くるを
硝子戸に初夏の日射しやひとりなる 別府市 渡辺小枝子
ポストまで下駄突つ掛くる薄暑かな 奈良市 斎藤利明
買主を待つ分譲地虞美人草 芦屋市 瀬々英雄
黄菖蒲や一夜の雨に濁る池 弥富市 富田範保
ラジオよりオールディーズや梅漬ける 伊勢市 奥田豊
盗まれし自転車戻る柿の花 東京 種谷良二

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年6月25日

◎ 父の日や父と娘の意地つぱり 長岡京市 みつきみすず
【軽舟先生評】父の日だというのにささいなことで互いに意地を張る。早く仲直りしたいと互いに思いつつ。

○ 笹百合や亡き妻詠まず何を詠む 葛城市 八木誠
【軽舟先生評】笹百合の花のような妻であったか。俳句を通じて折にふれ妻の姿を思い出してやりたい。

空青きアイスクリーム日和かな 大阪市 永井経子
午後長し浜昼顔に松の影 奈良市 荒木かず枝
石楠花〔しゃくなげ〕や雲に壮気の満ち来たる 船橋市 小澤光世
青蔦に廃屋搦めとられけり 大田市 森井晃一
西瓜売り裸電球煌煌と 奈良市 梅本幸子
プロ野球ラジオ中継瓶ビール 名古屋市 鈴木幸絵
白き波よせ来る駅や更衣〔ころもがえ〕 稲沢市 杉山一川
夏掛や仰向けに読む文庫本 西宮市 濱和子
待つ人のゐて一人旅桐の花 東京 井上茅
恙〔つつが〕なく夕映え淡し桐の花 鴻巣市 菅野捷子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年6月18日

◎ 水彩をはじくクレヨン濃〔こ〕紫陽花〔あじさい〕 四條畷市 植松徳延
【軽舟先生評】子どもが描いているのだろう。紫陽花はクレヨン、背景は水彩絵具。「はじく」が発見。

○ 銀座まで散髪に行く五月かな 我孫子市 矢澤準二
【軽舟先生評】わざわざ銀座までというこだわりに人となりが出る。五月のすがすがしさが気分を高める。

祭髪伝法にして愛らしき 名古屋市 可知豊親
立ち番の長靴に来し黄蝶かな 洲本市 小川吉祥子
御刀拵所〔おんかたなこしらえどころ〕濃紫陽花 札幌市 村上紀夫
京言葉柳の風に吹かれくる 高山市 直井照男
桜桃忌文学少女皆老いて 堺市 野口康子
蚊遣火やはねつかへりの次男坊 宇都宮市 大渕久幸
店先に犬の寝そべる薄暑かな 北九州市 宮上博文
禅寺へ祇園を通る暮春かな 寝屋川市 数藤茂
あめんぼの水紋つらね用水路 あま市 野田朱美
人生に節目節目や竹の秋 我孫子市 新井美枝子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年6月12日

◎ 積ん読の一番上や若葉風 秋田市 鈴木華奈子
【軽舟先生評】買ったばかりの一冊。その上を風が吹き抜ける。読みたいと思うこと自体が楽しいようだ。

○ 母の日や箪笥に残る割烹着 東京 石川昇
【軽舟先生評】立派な着物や帯ではない。母によく似合った白い割烹着が何よりなつかしい。

入れ替はり妻の出かける薄暑かな 明石市 北前波塔
巣燕や表札はまだ兄のまま 唐津市 梶山守
薫風や外に連れ出す父と母 大阪市 吉長道代
夕霞子を呼ぶ山羊の声寂し 入間市 安原勝広
すずらんや嬰子〔みどりご〕の目の汚〔けが〕れなき 行橋市 野田文子
惜しみなく空まさをなり田水張る 四日市市 伊藤衒叟
五年ぶり夫婦で映画走り梅雨 前橋市 鈴木きよえ
何も彼〔か〕も捗らぬ日や豆御飯 志木市 谷村康志
山の香を纏ひて降れり夏の雨 武蔵野市 水田隆
白南風や家中の窓拭きあげて 長野市 中里とも子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年6月4日

◎ 新橋の塵氛〔じんふん〕に春惜みけり 水戸市 砂金祐年
【軽舟先生評】塵氛とは俗世の利欲にまみれた空気。新橋の喧噪に身を沈めれば、それはそれで居心地がよい。

○ 階段の右側登る蟻の列 野田市 塩野谷慎吾
【軽舟先生評】たまたま右側に蟻の列が続いていたのだが、あらためてこう言われると妙に人間くさい。

春雨や岸を離るる屋形船 福岡市 礒邉孝子
亀鳴くや一休居士の無精髭 龍ケ崎市 本谷英基
春落葉掃きたる土の湿りかな 東京 望月清彦
万緑の真つ只中を鼓笛隊 深谷市 酒井清次
メーデーや色の褪せたる組合旗 神戸市 木内美恵子
葱坊主帰りも犬に吠えられし 龍ケ崎市 清水正浩
鯉のぼり団地に若き夫婦住み 門真市 田中たかし
サイダーや畑の石に腰下ろす 鈴鹿市 岩口已年
丸め癖つきし台本走り梅雨 東京 木内百合子
一人には広過ぎる家春惜しむ 古賀市 大野兼司

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年5月28日

◎ 竹皮を脱ぐ熊の子の背くらべ 長岡京市 みつきみすず
【軽舟先生評】冬眠中に生まれた子熊と勢いよく伸びた筍。童話のように描かれた自然がほほえましい。

○ 働き方変へても貧し啄木忌 高萩市 小林紀彦
【軽舟先生評】国会審議の進まない働き方改革関連法案。議論ばかりでは現実は変わらないという訴えか。

虻〔あぶ〕去れば蜂寄り来る画帳かな 亀山市 藤原紅
つめたき指不憫がられるヒヤシンス 東京 木村史子
雛罌粟〔ひなげし〕の咲くあばら家に戻りけり 愛西市 小川弘
燕来て日本の田圃いきいきす 津市 田山はじめ
境内に出店の残る遅日かな 津市 渡邊健治
桜しべ掃く夕方の土産店 吹田市 末岡たかし
野焼の火風と喧嘩をしてゐたり 久慈市 和城弘志
囀〔さえずり〕が囀を呼ぶ雨上り 横浜市 竹村清繁
山寺も布団を干して梅雨晴間 伊万里市 田中秋子
町薄暑ショパンを流す美容院 桜井市 中博司

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年5月21日

◎ 子を連れて犬をもらひに花の昼 加古川市 中村立身
【軽舟先生評】子どもにせがまれて犬を飼うことに。桜の季節に犬を加えた家族の新しい生活が始まる。

○ 夜桜や〆〔しめ〕の寮歌に肩を組み 神戸市 田代真一
【軽舟先生評】これぞ高歌放吟。周りの花見客には少々迷惑だが、これをやらないと気が済まないのだ。

制服のてかてかの肘卒業す 和歌山市 西山純子
古草に等しく雨の降りにけり 土浦市 今泉準一
どの顔も年金ぐらし花筵〔むしろ〕 東京 齋木百合子
船もどる漁村の夕餉焼諸子〔もろこ〕 彦根市 松本勝幸
出帆のフェリーに春の星座かな 市原市 稲澤雷峯
複製のゴーギャンの絵や夏近し 静岡市 生江八重子
青嵐森羅万象ひるがへす 松戸市 花嶋八重子
長き影ひきて夕日に孕鹿〔はらみじか〕 奈良市 渡部弘道
春の空ベンチに見上ぐ作業員 流山市 小林紀彦
こころ病む青年に添ふしじみ蝶 君津市 金澤惠子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年5月14日

◎ 花の昼都電都バスと乗り継いで 東京 喜納とし子
【軽舟先生評】遠出するわけではないが、これもちょっとした旅の気分。「都電都バスと」の弾みがよい。

○ 行く春や一卓で足る同期会 北本市 萩原行博
【軽舟先生評】集まる顔ぶれはだいたい決まっている。たとえ一卓でも囲めるうちはずっと続けよう。

天守より望むわが町黄沙降る 北九州市 吉松正彦
葉桜や旅の女のイヤリング 金沢市 青木英昭
肉体派女優偲べり昭和の日 川越市 峰尾雅彦
囀〔さえずり〕や土蔵の窓の板庇 横浜市 村上玲子
江ノ電の止まる腰越判官忌 豊橋市 河合清
桜蕊降る曲り家の飼葉桶 福岡 村岡昇藏
ひつそりとおしやれの店や昭和の日 真岡市 下和田真知子
写経する机上あかるき朝桜 奈良 高尾山昭
読経の響く回廊牡丹咲く 奈良 中川潤二
ほととぎす墓山かけて啼きにけり 福岡市 三十田燦

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年5月8日

◎ 石ころの尻に当たるや花筵〔むしろ〕 伊丹市 奥本七朗
【軽舟先生評】敷いた筵の下に石ころが出っ張っている。その感触もまた花見らしくてうれしい。

○ 啓蟄や職場復帰は週三日 福岡市 三浦啓作
【軽舟先生評】啓蟄は冬ごもりの虫が地中から出てくる頃の意。リハビリ中の作者の気分にぴったりだ。

桜散る雑巾しぼるバケツにも 高知 渡辺哲也
耕やすや腰のラジオの英会話 秋田市 神成石男
美しい鳥を見てゐる暮春かな 小田原市 守屋まち
延々と続く会議や鳥帰る 青森市 小山内豊彦
午後からの柔らかき雨花祭 奈良市 石田昇己
鰻屋の暖簾をくぐる花見かな 羽生市 小菅純一
低気圧近くなりけり蝌蚪〔かと〕の紐 川越市 小澤悠人
下萌や立て掛けてある一輪車 東京 種谷良二
街騒〔まちざい〕に聞く潮騒や放哉忌 東京 石川黎
弟〔おとと〕来て姉に戻るや彼岸寺 宮崎市 境雅子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年4月30日

◎ 春雨や向かひの猫も外ながめ 北九州市 岡田成司
【軽舟先生評】道を隔てて外を眺める作者と猫。まるで同志のように春雨の一日の無聊(ぶりょう)を分かち合う。

○ 留学生もてなす雛を飾りけり 神戸市 木内美恵子
【軽舟先生評】日本の文化にたくさん触れてほしい。押入の奥から久しぶりに雛人形を引っ張り出す。

初蝶のおのぼりさんのやうにかな 東京 氣多恵子
春泥や年輪かをる鉋〔かんな〕くづ 明石市 岩田英二
窓ごしに春月コインランドリー 行橋市 小森慶子
新社員窓大きくて明るくて 龍ケ崎市 清水正浩
永き日や嫁ぎたる子の部屋ふたつ 吹田市 葉山芳一
春眠に雀らのこゑ遠ざかる 池田市 黒木 淳子
暖かき故山の土手やハーモニカ 須賀川市 関根邦洋
出支度のながき女や養花天 京都市 小川舟治
淋しげに猫は顔あぐ桃の花 東京 四倉ハジメ
歩をとどめ春夕焼の野に祈る 宮崎市 明野良子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年4月23日

◎ 打ちかけの床屋の碁盤燕来る 津市 田山はじめ
【軽舟先生評】散髪客が来たのでいったん中断。軒を燕がかすめて、商店街ののどかな一日が過ぎていく。

○ うららかやコロッケ揚げただけ売れる 一宮市 渡辺邦晴
【軽舟先生評】肉屋の店先でコロッケを揚げている。揚げたてを狙って昼飯前の近所の人たちが買いに来る。

ピース缶ぽつんと墓に入彼岸 那須塩原市 谷口弘
春暁や濃きコーヒーとインクの香 秋田市 神成石男
潮待ちの桶に肱置く栄螺〔さざえ〕海女 北九州市 宮上博文
せせらぎは銀の鈴の音春の朝 名古屋市 大島知津
たくさんのドア開いてゐる新社員 名取市 里村直
廃駅の動かぬ時計春遅々と 藤沢市 青木敏行
青き踏む幼子の声父母のこゑ 岡崎市 金田智行
春の雨欅の幹を濡らしけり 広島市 谷口一好
なかんづく胡坐〔あぐら〕の脛〔すね〕に花の冷 新居浜市 木下信
魚は氷に上る羊羹厚く切る 横浜市 竹村清繁

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年4月16日

◎ 淡路から花の荷届く遅日かな 明石市 北前波塔
【軽舟先生評】花卉(かき)栽培の盛んな淡路島から明石海峡を渡って生花が届く。まるで春そのものが届くよう。

○ 朝風呂に初うぐひすや雨上がり 吹田市 渡邉建彦
【軽舟先生評】勤めが現役のうちはなかなかできないことで羨ましい。朝風呂には申し分ないお膳立てだ。

船員の娘の写真春の潮 下関市 福永浩隆
川越えの風のつめたきミモザかな 東京 上川畑裕文
啓蟄〔けいちつ〕や話し足らざる女たち 島根 高橋多津子
天命の父の棺に黄砂降る 香取市 嶋田武夫
摘草や橋なき土手を果てしなく 館林市 寺内和光
春の日やトロンボーンのビブラート 秋田市 鈴木華奈子
水音の明るき水車蕗の薹 町田市 枝澤聖文
斉唱の窓から空へ卒業す 尼崎市 吉川佳生
連翹〔れんぎょう〔やガラスのビルに空あふる 松本市 上月くるを
足とめて風鐸〔ふうたく〕を聞く日永かな 東京 江川文江

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年4月10日

◎ 囀〔さえずり〕に囀かへす川むかう 由利本荘市 松山蕗州
【軽舟先生評】川は雪解で水嵩が増している。その水音に負けじと恋の季節の鳥たちが囀りを競う。

○ 百枚の棚田に十戸春の海 大阪市 山田喜美
【軽舟先生評】先祖が力を合わせて築いてきた棚田なのだ。冬は荒れる海も今は耕しを促すように穏やか。

春月や母眠らせて湯に一人 大阪市 佐竹三佳
いかなごを炊きしその夜の嵐かな 神戸市 松田薫
早暁の一つ星ありヒアシンス 鈴鹿市 岩口已年
啓蟄〔けいちつ〕や寝ぐせのままの日曜日 東久留米市 矢作輝
梅咲くや小さき畑のトラクター 所沢市 佐々木孝逸
ものの芽や地図を見てゐる郵便夫 仙台市 小林水明
杣道〔そまみち〕を明るくしたる落椿 嘉麻市 松井春光
一通の文一輪の桃の花 日高市 落合好雄
雛の灯の消えてそぼ降る雨の音 羽生市 岡村実
一湾に弥生の潮〔うしお〕満ち来たり 徳島市 長山敦彦

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年4月2日

◎ 春めくや湯気に潰せる粉吹芋 京都市 新宮里栲
【軽舟先生評】わが家自慢のポテトサラダを作る。あつあつのジャガイモの湯気に春を感じるのも楽しい。

○ 蕗の薹汁にはなちて今日を生く 常陸大宮市 笹沼實
【軽舟先生評】毎日が繰り返しに見えても今日は一度きり。庭で摘んだ蕗の薹を刻み、味噌汁にさっと放つ。

病妻の爪切る夫や春の昼 吹田市 坂口銀海
豆腐屋の喇叭〔らっぱ〕出しぬけ春夕べ 神奈川 新井たか志
札ちよんの息子たづねる啄木忌 入間市 松井史子
既決から戻す稟議書春一番 東京 根岸哲也
農協の婚活へゆく春ショール 東久留米市 夏目あたる
永き日や訓練つづく消防士 大阪 池田壽夫
港江〔みなとえ〕の古き洋館花ミモザ 福岡市 瀬尾英子
白梅や写真一枚だけの母 いすみ市 酒井良司
芽吹きたり結びみくじの枝の先 加古川市 中村立身
雪解や白壁並ぶ蔵の町 弘前市 岩田秀夫

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年3月26日

◎ 谷根千〔やねせん〕の路地の植木に春兆す 土浦市 今泉準一
【軽舟先生評】谷中、根津、千駄木。都心のすぐ近くに息づく昔ながらの暮らしに、今年も春がやって来た。

○ 立春の米研ぐ水の濁りかな 新居浜市 正岡六衛
【軽舟先生評】今日が立春だと思えば、いつもと同じ米の研ぎ水の濁りも、にわかに春めいて見える。

百円で跳ねる木馬や山笑ふ 和歌山市 西山純子
父母と犬を引く子と青き踏む 唐津市 梶山守
店仕舞早き奈良町冴返る 奈良市 上田 秋霜
石鹸〔しゃぼん〕玉吹く子に風のやはらかき 千葉市 新原藍
鳴き交はす声の二色春の庭 藤沢市 一色 伽文
ナプキンの白き帆が立つ春の卓 和歌山市 溝口圭子
天金の聖書を開く名残雪 藤枝市 山村昌宏
どじよつこの見上げる光薄氷 青森市 天童光宏
唾付けて糸屑拾ふ春炬燵 古賀市 大野兼司
探梅や酒亭の旗の翩翻〔へんぽん〕と 龍ケ崎市 本谷英基

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年3月19日

◎ 踏青や飛行機雲のうすれゆく 東大阪市 三村まさる
【軽舟先生評】春の野に出て仰ぐと、都会生活で忘れていた空の広さを思い出す。いつまでも見ていたい。

○ 干拓地畦真つ直ぐに草萌ゆる 岡山市 三好泥子
【軽舟先生評】干拓地らしく広々とした田が整然と続く。真っ直ぐに伸びた畦がいっせいに春を迎えた。

干鰈〔ほしがれい〕炙〔あぶ〕る小昼や瀬戸青し 茅野市 植村一雄
熔鉱炉春月高くかかげけり 北九州市 宮上博文
奴凧風の自由にさせてをり 可児市 金子嘉幸
泰然と車道よこ切る孕み猫 北九州市 岡田成司
口遊〔くちずさ〕む越路吹雪や春きざす 西都市 子安美和子
風呂の窓開くれば遠き春の星 明石市 小田慶喜
春浅し瀬音かすかに峠道 伊勢市 奥田豊
水漬〔みづ〕く田に鷺下り立ちて冴返る 和歌山市 花谷康道
走つても走つても憂さ三十三才〔みそさざい〕 柏市 藤好良
鶯の今朝も来ている一樹かな 東京 中島孝子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年3月12日

◎ 春宵や畳二枚の地唄舞 奈良市 荒木かず枝
【軽舟先生評】茶屋の客の前で地方(じかた)の三味線と地唄に合わせて舞う。「畳二枚」で座敷芸らしさが出た。

○ 人事からこぼれた二人春の雨 東京 野上卓
【軽舟先生評】出世コースから外れて窓際に。同じ境遇の二人が仕事を早仕舞して街に飲みに出たか。

紅梅や売家の札に小糠雨 所沢市 鈴木興治
春浅し家庭科室の電気釜 和歌山市 西山純子
坑内に掘削機錆び黄砂降る 長崎市 中村英子
貫禄の薬缶の尻や比良八荒〔ひらはっこう〕 東京 木内百合子
絹に打つ待ち針の赤春隣 国分寺市 越前春生
呉服屋の黒き板塀冬木の芽 福岡市 礒邉孝子
雪解の峠のそば屋幟〔のぼり〕立つ 京都 千賀壱郎
江ノ電の改札出でて初音かな 京都市 石川かおり
庭の雪足跡つけぬまま消えし 出水市 清水昌子
退院の後の一日や春の雲 長崎市 中原勝次

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年3月5日

◎ 床の間の贋鉄斎や春隣 にかほ市 細矢てつを
【軽舟先生評】贋作と言われてがっかりした鉄斎の軸。それでも愛着があって、掛けてみるとやっぱりいい。

○ 立春や回転寿司の皿重ね 明石市 北前波塔
【軽舟先生評】皿が積み上がると贅沢した気分になる。値段ごとに色とりどりなのも春めいて見える。

早梅や白雲うすれつつ早き 芦屋市 井門さつき
松飾りして島渡し待合所 唐津市 梶山守
紺深き畳の縁や寒稽古 平塚市 藤森弘上
海峡に船多くして春隣 霧島市 久野茂樹
大寒や豚汁啜〔すす〕るドライブイン 下関市 小林知吉
鎌倉も北鎌倉も雪の中 鎌倉市 松崎靖弘
寒落暉〔かんらっき〕左遷の辞令われ一人 一宮市 渡辺邦晴
太陽の老いて夕べの氷かな みよし市 稲垣長
付箋貼る妻の読書や春隣 横浜市 牧野晋也
北風を来て北風を見てをりぬ 塩尻市 原田規子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年2月26日

◎ またひとつ学ぶことあり冬木の芽 土浦市 今泉準一
【軽舟先生評】学ぶ心があれば学ぶべきことは世界に満ちている。それはいつか人生に花を咲かせる。

○ ゴム紐に動くおもちやや春めけり 東京 氣多恵子
【軽舟先生評】子供が工作で作った素朴なおもちゃ。ゴム紐の推進力がほのぼのとしてなつかしい。

青春の過ぐる早さや冬の虹 長崎市 田中正和
春近しワゴン車でくる何でも屋 亀山市 藤原紅
寒雀くらしにいつも湯が沸いて 東京 喜納とし子
髭を剃る鏡の中の寒さかな 豊田市 小澤光洋
叉焼〔チャーシュー〕の八角の香や毛糸帽 吹田市 三島あきこ
学習塾窓煌々とオリオン座 神戸市 大岩正彦
バス停に木椅子が一つ春を待つ 東京 齋木百合子
地表みな日向になりし枯野かな 稲沢市 杉山一三
凍鶴〔いてづる〕や比良連峰に陽の射して 八幡市 奥環
左義長や柏手響き火の粉跳ぶ 所沢市 佐々木孝逸

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年2月19日

◎ 鋤焼〔すきやき〕や記憶の中の幾場面 我孫子市 矢澤準二
【軽舟先生評】すき焼きにすると思い出す幾つもの場面。すき焼きは家族の晴れの日のご馳走だったのだ。

○ 春近し鞄〔かばん〕重たき調律師 東久留米市 矢作輝
【軽舟先生評】馴染みの家を回ってピアノの調律をする。ピアノが喜び、弾く子が喜べば、苦労も忘れる。

凍る夜を夢ひとつ見ず眠りけり 神戸市 松田薫
寒紅や俯き外すネックレス 調布市 佐藤悠紀子
初鶏や水車と暮す陶〔すえ〕の里 芦屋市 瀬々英雄
竹藪は雀のまほら初明り 嘉麻市 堺成美
年惜しむエンドロールと愛の歌 名古屋市 大島知津
初雀電車来ぬ間の線路かな 東京 関口昭男
尼様の遺愛の目高初氷 弥富市 富田範保
参道の松毬〔まつかさ〕蹴つて春着の子 大阪市 佐竹三佳
初旅や湯宿の坂の石畳 長岡京市 みつきみすず
定位置は公園出口焼芋屋 東京 石川昇

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年2月12日

◎ 初明り妻の寝顔が側にある みやま市 紙田幻草
【軽舟先生評】目覚めると隣の蒲団に妻の寝顔がある。元旦の初明りの下で、それが無性にありがたい。

○ 秋葉原神田東京初電車 東京 木村史子
【軽舟先生評】駅名のアナウンスを聞きながら山手線に乗っている。それぞれ異なる街の表情を思い浮かべる。

有平棒〔あるへいぼう〕まだ廻りゐる小〔こ〕晦日〔つごもり〕 仙台市 小林水明
水鳥や雨となりたる貯木場 市原市 稲澤雷峯
初東風〔はつごち〕に鬣〔たてがみ〕なびく神馬かな 横浜市 村上玲子
電飾の駅に迎への厚着かな 龍ケ崎市 井原仁子
逝きし子の仏間電飾クリスマス 札幌市 江田三峰
凧〔たこ〕揚に適ふ日和や大江山 京都 千賀壱郎
文鳥の羽の白さや冴返る 湖西市 宮司孝男
カーテンの小鳥の影や日向ぼこ 飯塚市 倉田幸男
年迎ふ厨〔くりや〕明るき白布巾 茨木市 桐田昶子
真菰〔まこも〕沼白鳥日記つける子ら 横浜市 加野庸子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年2月6日

◎ 青空のかなたシベリア寒波来る 青森市 小山内豊彦
【軽舟先生評】また強い寒波が来るらしい。上五中七の表現で寒波の到来が冴え冴えと実感できる。

○ ふくらめる猫よ雀よ冬日向 松戸市 花嶋八重子
【軽舟先生評】猫が雀を襲うこともなく、仲良く冬の日向を楽しむ。作者の理想を描いたような平和な情景。

戛戛〔かつかつ〕とブーツの響き寒北斗 京都市 小川舟治
里山の風なきところ帰り花 富士宮市 渡邉春生
心臓は休まず動き去年今年〔こぞことし〕 福岡市 三浦啓作
初富士や甲斐と駿河の国自慢 香取市 嶋田武夫
八十年兵卒のまま墳墓凍つ 東京 望月清彦
伏して聴くラジオ講座やシクラメン 太宰府市 上村慶次
冬の夜のインターホンに風の音 東京 種谷良二
焼け残る棒杭一つ去年今年 川越市 峰尾雅彦
風花や妻と別るる交差点 高萩市 小林紀彦
影踏みや分校までの冬田道 真岡市 下和田真知子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年1月29日

◎ 誰よりも赤きマフラー銀座の夜 東京 松崎夏子
【軽舟先生評】真っ赤なマフラーを巻いて闊歩する。「誰よりも」と言い切れる心意気が楽しい。

○ 寒燈や活字の小さき求人誌 玉野市 松本真麻
【軽舟先生評】どんな些細な情報も見逃すまいと目で追う。季語の寒燈が職探しの切実さを表している。

やはらかき踏みあとのある冬野かな 鈴鹿市 岩口已年
年用意厨〔くりや〕に強火弱火あり 神戸市 松田薫
文字盤に透ける歯車十二月 福岡市 礒邉孝子
背戸口は鎌倉道や冬木の芽 横浜市 宮木登美江
太陽よ我は何者年暮れる 倉敷市 瀬戸初音
昼からは曇りてきたる年の暮 姫路市 板谷繁
御正忌の磨き上げたる仏具かな みやま市 紙田幻草
旅終へていつもの朝や寒雀 大阪市 永井経子
煤逃〔すすにげ〕や路面電車の一日券 藤沢市 一色伽文
木枯や駅前ながき仮囲ひ 高知 渡辺哲也

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年1月22日

◎ 寒日和機影は音の先にあり 防府市 倉重遥代
【軽舟先生評】音は光より遅れて届く。その知識を大景として表した。寒日和と置いたのが効果的だ。

○ 癇癪玉弾け寒波にさまよへる 川越市 小澤悠人
【軽舟先生評】怒りを爆発させて外に飛び出したのだろう。頭を冷やしてから待つ人のもとに帰ろう。

お取越〔とりこし〕日和の道をつれだちて 周南市 河村弘
枯木立雲の早きに衿を立つ 明石市 岩田英二
窮冬や低く羽撃〔はばた〕く谷津の鷹 千葉 阿部尚子
豆殻を一焼〔ひとくべ〕焚いてしまひ風呂 今治市 越智ミツヱ
帰る時子の咳するは寂しかり 平塚市 矢野きみ子
行く年の裏山月を掲げけり 豊田市 内山幸子
涸れ果ててバケツひとつや池の底 津市 渡邊健治
鯛焼の熱きを大工喜べり 日向市 黒木鳩典
山茶花や女子寮跡は駐車場 名古屋市 浅井清比古
紅い実の雪を散らして小鳥かな 奥州市 生田東

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年1月16日

◎ 正月も搾乳に立つ牛舎かな 厚木市 石井修
【軽舟先生評】牛とともに暮らす酪農家の正月。毎日同じ繰り返しでも今日はあらたまった気分がある。

○ 貼り替へし障子に太し幹の影 大村市 森宏二
【軽舟先生評】貼り替えた真っ白な障子紙に庭木の幹がくっきりと影を落とす。一仕事終えた充実感。

冬桜けむりのやうに咲きにけり 国分寺市 越前春生
木枯やコンビナートの守衛室 佐倉市 小池成功
枯草に星のまたたきしづまらず 東京 松嶋光秋
不器用な男同士のおでん鍋 東久留米市 矢作輝
極月の大きな月の今沈む 豊田市 松本文
息白く向かふ原稿用紙かな 松戸市 内山佑樹
宿坊の庭掃く音や冬帽子 市原市 布施昌子
映画館出て現し世の秋深し 埼玉 南曉
蒸気立つ朝の工場や浮寝鳥 東京 山内奈保美
少年の小金握りて年の市 嘉麻市 松井春光

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2018年1月8日

◎ 巌頭の僧院灯る聖夜かな 岡山市 三好泥子
【軽舟先生評】にぎやかな都会のクリスマスとは無縁の静謐(せいひつ)で敬虔な聖夜。僧院の厳しい暮らしを思う。

○ 冬紅葉女の一生〔ひとよ〕杼〔ひ〕のごとし 吹田市 末岡たかし
【軽舟先生評】経(たて)糸に緯(よこ)糸をくぐらせる織機の杼。世間に振り回されながら懸命に立ち働いたのだ。

リボンほどく指見てをりぬクリスマス 東京 木村史子
夭折のいもうとの墓銀杏散る 芦屋市 水越久哉
冬に入る風を哭〔な〕かせて古戦場 豊田市 小澤光洋
歯ブラシの仲良く並ぶ冬日かな 横浜市 牧野晋也
木枯しや持場離れぬガードマン 伊丹市 山地美智子
頬被してご機嫌の千鳥足 習志野市 長尾登
総務課の仕事会社の歳用意 東京 野上卓
朝焚火終へて鶴嘴〔つるはし〕振るひ出す 鎌倉市 松崎靖弘
シャッターに張り紙ひとつ雪催〔ゆきもよい〕 名古屋市 鈴木幸絵
自転車に鍬括り付け冬耕に 富山市 藤島光一