小川軽舟 | 第01回 田中裕明賞

2010年 第01回 田中裕明賞

選考委員の言葉


私が一位に推した後閑達雄の句集『卵』は穏やかなタッチの日常詠の集成である。社会に十分適応できない人生を嘆くでもなく、それを日常として坦々と受け容れる。そのスタンスがいかにも現代的だと思われた。

〈蜜柑むく大人四人の家族かな〉にはパラサイトシングルと呼ばれる社会現象が暗示されているのだろう。「家族」といえば子どもを連想する常識を裏切って、作者自身の日常を示す。これからどんな現代を詠ってくれるのか楽しみな作者だ。

二位に推した小川春休の『銀の泡』は、〈風船の割れて結び目残りけり〉など、どんな些事にも感興を見出すテクニックに舌を巻く。ただし、古いものを好む姿勢がちょっと目立ち過ぎないか。三位とした遠藤千鶴羽の『暁』は、既に第二句集ということで安定感があった。〈白菜に菜虫の穴のどこまでも〉と詠む素直な目に個性の芯が通るようになるとさらに成長するだろう。

受賞した髙柳克弘の『未踏』は出版に関わったので推薦対象から除外したが、現在台頭しつつある若手俳人たちを代表する力量を遺憾なく発揮していると思う。田中裕明賞の幕開けにふさわしい句集の受賞を歓びたい。