小川軽舟 | 第02回 田中裕明賞

2011年 第02回 田中裕明賞

選考委員の言葉


私は一位に宇井十間の『千年紀』、二位に杉原祐之の『先つぽへ』、三位に杉山久子の『鳥と歩く』を推した。三者三様、まったく違ったタイプの句集である。

『千年紀』は「世界の終わり」をテーマとして構成された見通しのよい句集である。相当年数作品がたまると一冊の句集にまとめるというスタイルが大半を占める中で、このテーマ性がまず新鮮だった。テーマ自体は目新しいものでもないが、作者の終末観は不思議に明るく、そしてどこかで別の新しい世界が開かれる期待とともに示されるところに惹かれた。〈ひぐらしや遠い世界に泉湧く〉など、このテーマに俳句らしいアプローチで成功している。ただし、その平明さが、まだ深さや厚みに達する途上にあるとも感じられた。むしろ次の句集で真価を問いたい作者である。

『先つぽへ』は、〈海女小屋の電気メーター回りをり〉など現地での取材を重視する姿勢が生き生きとした作品世界をもたらしている。『鳥と歩く』では〈彗星のちかづいてくるヒヤシンス〉など静謐な抒情性が印象に残った。しかし、どちらの句集も作品にムラがあることは否めなかった。

受賞作なしという結果は、選考委員の一人として残念に思う。どうかこの結果は、選考委員の本気の表れなのだと理解していただきたい。田中裕明の名を冠する賞であるからこそ、まだ若いのだから期待を込めてというような配慮をしたくなかったのである。

年齢に関わらず、俳句の言葉はいくらでも磨き、深めることができる。今回の応募者には心からエールを送りたい。そして、今回の応募者の再挑戦も含めて、田中裕明賞の名にふさわしい新しい世界を俳句の言葉で体現する作者の登場を待ちたい。