小川軽舟 | 作品本位の俳句集団

毎日新聞社 「俳句あるふぁ」2012年04・05月号

老若男女、年功序列ではなく、作品本位で競っていく俳句集団を目指す! | 小川軽舟の世界


柔軟な発想と確かな写生眼により、幅広く独自の句風を切り拓いてきた小川軽舟さん。 いま、若手の中でも特に注目度が高い軽舟さんは、飄々とした歩みをつづけています。 藤田湘子に蹤き、若くして「鷹」の主宰を継ぎながら、その世界をさらにひろげていきます。古くからの鷹の仲間たちはもちろんですが、彼を慕って新しく「鷹」に入る若手もふえています。 作品のみならず、評論やエッセイにもその怜悧な筆をふるう、論・作の双方に秀でた新世代の代表です。 今号は、小川軽舟の人と作品を繙きながら、これからの彼の目指す世界は何なのか、その全貌に迫ります。


毎日新聞俳句欄の新しい選者に就任

――このたび、毎日俳壇の選者になられましたね。

はい。昨年の十一月から、もうすでに十回ほど過ぎたところです。自分の結社の選とはまたちがって、作風も俳歴もいろいろですし、選句の裾野もひろがって、選評を書くのが本当に楽しみです。そのあたりが、読者に伝わってくれたら嬉しいのですが……。私らしい選句をしていきたいと思っています。

一週間ごとで、サイクルがはやいので、その点は大変ですが、新聞の俳句の選者は、それなりの異なった愉しみがあります。新しい作者との出会いを求めて、これから頑張ってやっていきたい、と思っています。よろしくお願いします。

――小川軽舟さんが、俳句をはじめられたきっかけは?

昭和六十一年(一九八六)からですね。その二年前に大学を卒業し銀行に就職しました。そのころ仕事の他にも何かやってみたいな、と思っていた時でした。たまたま山本健吉さんが書いた『現代俳句』(上・下巻、昭和26・27)の角川文庫版をみて、俳句に興味をもちました。この本は正岡子規からはじまり、四十二人を取り上げた明快な文章で、近代俳句を展望する名句鑑賞辞典のようなものですが、俳句を作ったことのない私にもその魅力が伝わり、なかなか面白いものでした。

そのうち自分も作ってみようかなと思いたち、いろいろ調べているうちに藤田湘子の「鷹」がいいと、入会しました。

ちょうど湘子が一日十句の多作修業をやっていたころで、三百句以上が巻頭に掲載されていましてね。なかなか元気がいい主宰だな、と感心しました。でも、その大量の句は、はじめほとんど理解はできていなかったと思います。しかし、ここで勉強してみよう、と決意しました。

――湘子さんは、厳しい先生だったそうですね。

そうみられていたようですが、僕たち新人には優しいところもありました。中央例会には、毎回二百名近くが集まって来ていましたが、私が初めて出席した例会の帰りに、「おい、そこの新人、きょうは俺についてこい!」っていわれて、懇親会の居酒屋につれていかれました。湘子主宰は、若い人たちを育てていこうという気風が強かったですね。「鷹新人スクール」(二、三十代の若者を育てる勉強会)というものを始めて、若い人は会費免除で勉強させました。いまはインターネットによる新人会句会として私が指導しています。湘子はなかなかのアイデアマンでしたね。「鷹」では「五人会」という地方ごとの新しい組織をつくって、中央例会とは別の形で活発に句会をひらいています。五人から九人までのていねいな鍛錬会ですね。中央例会では大勢すぎて細かいところまで一句についての批評ができませんので、十人までの小句会を細かく全国で展開し、お互いに勉強し合うというものです。五人会賞というのも出しています。十人以上になったら別のグループに新たに分けていく、という方法で、全国に五人会を沢山増やしていっています。こういう小さな句会がやがて全体の原動力になって集まり、大きなうねりになっていくのです。

――なるほど、一句一句ていねいに作ったり評するのは、せいぜい五人くらいのほうが限度で、目が届いていいですね。

両方ないといけない、と思っています。小句会でていねいに細かく合評する会が集まって、中央の大きな句会に結集する、その両輪がある、そういうところが、大きな結社では必要でしょうね。

――さて、軽舟さんは、「鷹」新人賞、それから二十五回俳人協会新人賞なども受賞されて幅広く独自の句風をひろげていますが、一方、『魅了する詩型』(平16)などにより第十九回俳人協会評論新人賞も受賞されていますし、作品と同時に評論やエッセイにも犀利な健筆をふるわれていますね。主宰をはじめ、髙柳克弘、奥坂まやさんなど、「鷹」にはいい評論を書かれる仲間もいっぱいいます。論作をともに奨励されているのですか?

特別にそうし向けているわけではありませんが、湘子も飯島晴子も評論を書きましたから、皆それぞれにテーマをもって、一生懸命勉強しています。

私は作品はもとより、もっといろいろと文章も書きたいのですが、まだ昼は現役で勤めをもっていますし、思うように時間のやりくりがつかなくてはがゆく思っているところです。もっと俳句にも文章にも時間を割きたいと思っていますが、なかなか難しくて……。

――そうですか。最後に、小川軽舟さんにとっての俳句って、いったい何でしょうね。

ひと口ではいいつくしにくいのですが、大げさにいえば、ひとつひとつの俳句が私そのものであるという……。俳句って何かいいたいことがあって伝わる形式ではないような気がするのです。

形式をもちながら、世界を見渡していくことではないでしょうか。俳句という型に向かっていると、飛び込んでくる大切なものがある、それが私自身である、といいかえてもいいかもしれませんね。

俳句をいっぱい作りつづけていくなかから、自分自身をみつけていく。うまく、カッコよく俳句をまとめていくのも、それはそれで必要かもしれませんが、やっぱりそれだけではつまらないし、自分自身もそれでは満足できませんしね。こうすれば俳句らしくなる、そう思ってできた句は、つならないですし、自分の成長にもつながらない……。

――湘子さんが亡くなられて、すでに七年になりますね。

私が引き継いで「鷹」も七年。三年前に『藤田湘子全句集』を刊行し、昨年四月に湘子七回忌もすませました。

湘子の時代からの年長者も多いのですが、私が主宰になってからの新しい会員もどんどんと増えつづけています。「鷹」という結社は、老若男女大勢いて、年功序列ではなく、みな作品を中心に「鷹」が大好きな人びとが仲良く集まって切磋琢磨していくグループです。「鷹」という雑誌はむかしからそういう雰囲気ですから、そこを大切にしながらこれからも頑張ってやっていきたいと思っています。

――ありがとうございます。これからも期待しています。


小川軽舟 おがわけいしゅう
昭和36年、千葉県生まれ。東京大学卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。61年「鷹」入会、藤田湘子に師事。平成9年鷹新人賞受賞。11年鷹編集長に就任。17年「鷹」主宰を継承する。14年句集『近所』で第25回俳人協会新人賞、17年『魅了する詩型 現代俳句私論』による第19回俳人協会評論新人賞を受賞。20年句集『手帖』、評論集『現代俳句の海図』、22年『自句自解ベスト100小川軽舟」を上梓。21年念願の『藤田湘子全句集』を刊行。23年11月より毎日新聞「毎日俳壇」選者に就任。