小川軽舟 | 第04回 田中裕明賞

2013年 第04回 田中裕明賞

選考委員の言葉


七冊そろって新しい時代の俳句を形作ろうとする意欲に満ち、どれを推すか選考委員として興奮を覚えた。

私が一位としたのは神野紗希の『光まみれの蜂』。短歌の世界で若い歌人たちの作品がすでに日常と等身大の口語、新かなによる文体をいきいきと駆使しているのに対して、俳句ではそれが実に難しい。詩型の違いによるものではあるが、若い俳人でも旧かな愛好者が多い。神野さんの作品は、代表作の「寂しいと言い私を蔦にせよ」をはじめとして、新かなにこだわり、新かなにふさわしい文体を工夫してきた軌跡がすがすがしい。

二位とした津川絵理子の『はじまりの朝』は生活の中での発見にあふれ、作品一つ一つが粒だっている。「切り口のざくざく増えて韮にほふ」など、ちょっと見方を変えるだけで世界が手つかずの新鮮さで現れる。受賞作となったことに私も納得している。

三位は堀本裕樹の『熊野曼荼羅』。産土である熊野だけをテーマに第一句集をまとめあげた力量には感服する。「口移しするごとく野火放たれぬ」の比喩のぞくぞくするような息遣い。テーマと著者の若さがぶつかりあって快い。

高山れおなの『俳諧曽我』は五七五の埒外に裾野を広げて鬱勃たる巨峰の印象。圧倒的な筆力だが、一句で屹立する作品がほしかった。御中虫の『関揺れる』は季題に代わる題詠の試みが現代的。機略縦横であらためて著者の言葉のリズム感に感心した。宮本佳世乃『鳥飛ぶ仕組み』の詩情、山田露結『ホーム・スウィート・ホーム』の哀愁にも惹かれた。七冊が七冊、個性を主張して競い立っていた。