小川軽舟 | 俳号を語る

文學の森 「俳句界」2013年07月号

俳号を語る | 著名俳人、俳号の謎


小川軽舟 おがわ・けいしゅう 「鷹」主宰

私は大学生最後の年のいわゆる卒業旅行に中国大陸を選んだ。今の中国とはまったく別の国だった。広い大通りに自動車はなく、誰もが人民服を着て自転車を漕いでいた。中国に行ったら長江を船で下ろうと思っていた。李白の詩の世界を見たかったのだ。

  早に白帝城を発す 李白 『李白詩集』岩波文庫

 朝に辞す 白帝 彩雲の間  千里の江陵 一日にして還る
 両岸の猿声 啼いて尽きざるに  軽舟已に過ぐ 万重の山

船中二泊の旅。猿の声は聞こえず、船は立派な汽船だったが、三峡を下る気分は爽快だった。数年後に藤田湘子に入門する際、私はこの詩から自分で軽舟の号を選んだ。

「おまえは重舟になれ!」

酒席で湘子にこう言われたものだ。私の俳句がいかにも軽量級だったからである。重舟では沈んでしまいそうだな――そう思いながらも私は軽舟のまま今日まで来た。