小川軽舟 | 第05回 田中裕明賞

2014年 第05回 田中裕明賞

選考委員の言葉


自分よりも若い世代の俳人が俳句にどんな新しい可能性を見出してくれるのか、田中裕明賞の選考のたびに期待と興奮をもって一冊一冊の句集に向き合ってきた。早いもので今回が五回目の選考会となったわけだが、若者たちの果敢な取組に選考委員のほうがむしろ励まされているように感じた。

私が第一位に推した榮猿丸の『点滅』は、現代の日常におけるミニマルな差異に詩を見出す実験の連続とも言えよう。〈Tシャツのタグうらがへるうなじかな〉〈片陰や画鋲に紙片のこりたる〉〈くちびるに湯豆腐触れぬ吹きをれば〉。つまらないと思ってしまえばつまらないこれらの素材を真剣に詠み続ける姿勢が切なく新しかった。その切なさが〈ビニル傘ビニル失せたり春の浜〉〈コインロッカー開けて別れや秋日さす〉といった抒情的な作品を生むのだ。ただし、〈ローリング・ストーンズなる生身魂〉というおもしろがり方は古くさいし、〈トイレットペーパーにミシン目秋立ちぬ〉は着想に惹かれるものの表現が雑だと感じる。そうしたマイナスに目をつぶっても推したい魅力があった。

第二位に推したのは野口る理の『しゃりり』。知性的な作風ではあるが、自分自身の生き方をほのぼのとしたユーモアで包み込むように眺めているのが楽しい。〈初夢の途中で眠くなりにけり〉〈子孫より先祖親しき日永かな〉〈小瑠璃飛ぶ選ばなかつた人生に〉、これらの作品に宿る詩情はこの作者独特のものだ。ただし、作品の当り外れが大きいという印象は否めなかった。

第三位は西村麒麟の『鶉』。肩の力の抜けた作風にはどこか現代の隠者という風貌があるのだが、それが今の若者の一面なのかとも思われて興味深い。〈ぶらついて団扇に秋の来たりけり〉〈初電車子供のやうに空を見て〉〈学生でなくなりし日の桜かな〉。句集としての構成の巧みさも光った。『点滅』と併せて受賞作となることに異存はない。