小川軽舟 | 第06回 田中裕明賞

2015年 第06回 田中裕明賞

選考委員の言葉


俳人が成長する道すじはさまざまである。俳句結社で主宰や先輩に育まれ、やがて作者自身の個性を現して一人前になっていく者。俳句結社から独立して、あるいは一定の距離を置いて、俳人としてのスタンスを固めて行く者。その軌跡として残される句集は、だから扉を開けて中に入った瞬間から、人によってまったく異なる空気に満たされている。

第一位に推した佐藤文香の『君に目があり見開かれ』は、既成の俳句らしさからすり抜けつつ、それでもなお俳句によってこそ世界を自分に引き寄せることができるという意志をもって一句一句が詠まれていることが感じられる。なぜか不思議と励まされ、元気が出る句集だった。「歩く鳥世界にはよろこびがある」、飛ぶ鳥ではない、歩く鳥だというのがよい。私も一緒に歩いてよろこびたくなった。「柚子の花君に目があり見開かれ」「風はもう冷たくない乾いてもいない」、内包する情趣は案外古風だ。しかし、古風であることと現代的であることは矛盾しないだろう。

第二位に推した鴇田智哉の『凧と円柱』も見慣れた俳句からは遠い。しかし、それでもなお、俳句でなければならないという意志はしたたかだ。「上着きてゐても木の葉のあふれ出す」「凩のふざけるこゑのして終る」。五七五の形式がへたるぎりぎりまで意味という空気を抜いてやって、言葉が言葉そのものとして響き合うことを目指している。空想ではなくあくまで現実に立脚して詠まれていることは、「毛布から白いテレビを見てゐたり」に始まる震災詠からもわかる。

第三位とした鶴岡加苗の『青鳥』は、結社で健やかに育まれて才能が次第に開いてゆく過程が、句集としてくっきりと表れていた。「鍵穴のやうな子の耳青胡桃」「音たてて開けるカーテン朝ざくら」「街灯にまたも弾かれ夜の蝉」といった作品が好もしい。私自身が結社で育った道のりを振り返るようななつかしさを感じた。