毎日俳壇 | 小川軽舟選 2015年

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年12月21日
◎ レノン忌や共に年取る同級生 日向市 内田遊木
【軽舟先生評】ジョン・レノンが凶弾に倒れたのは十二月八日。あれからもう三十五年が過ぎたのだ。
○ 機上より海を見てゐる開戦日 東京 吉田かずや
【軽舟先生評】遮る雲もなく海原が広がる。気づくと戦闘機のパイロットの視線になっている。
古本に押花のあり冬麗 東京 木村史子
表戸をかたかた鳴らし冬来る 新居浜市 正岡六衛
鴨撃ちて銃口にぶく光らしむ 常総市 前岡博
ラッパ吹くピエロ壊れて十三夜 彦根市 飯島白雪
着ぶくれて通り過ぎたり泉岳寺 神奈川 中島やさか
冬構庭に刈るもの括るもの つくば市 村越陽一
駅前の郵便局も松飾る 鈴鹿市 岩口已年
旅先の妻より電話神の留守 神戸市 森川勧
黒ぼくに並ぶ穴ぼこ大根引 岡山市 三好泥子
納屋の戸をギイと閉ざして冬構 下関市 堤ひろお
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年12月15日
◎ 靴を売る店の後ろの冬の海 大田市 森井晃一
【軽舟先生評】日本海に面した町の小景。背後にいきなり冬の海が広がることでシュールな印象が残る。
○ ネクタイをきつちり締めて冬に入る 東京 石川昇
【軽舟先生評】多くの職場がクールビズを十月末まで続けている。クールビズが終るとすぐに立冬だ。
落葉して森は淋しさ紛らはす 千葉市 畠山さとし
空艙のタンカー浮かび湾寒し 和歌山市 岬十三
腕組は楽な恰好冬日向 堺市 柞山敏樹
小春日の午後には乾く木のベンチ 金沢市 泉耿介
小春日や病癒ゆれば旅心 長崎市 田中正和
小春日や鳥の餌台出来上る 堺市 野口康子
寒月や留守居の母と長電話 横浜市 村上玲子
黄落や押し手も老いし車椅子 京都市 市川俊枝
二次会のイノダコーヒに秋惜しむ 京都市 小川舟治
二杯目はストレートなり冬来る 秋田市 鈴木華奈子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年12月7日
◎ めざす山展けし峠草の花 宇部市 谷藤弘子
【軽舟先生評】山道をひとしきり登ったところで見晴らしのよい稜線に出た。爽やかな風に汗が引く。
○ 小春日の道で拾ひしいい話 奈良 高尾山昭
【軽舟先生評】ばったり会った知り合いからいい話を聞いた。今度はそれを誰かに話したくてならない。
冬木立人は何かと淋しがり 可児市 金子嘉幸
落葉して落葉して森眠りけり 松原市 西田鏡子
野阜〔のづかさ〕に村の墓原女郎花 福岡市 三浦啓作
立冬やオートミールの陶の匙 小平市 土居ノ内寛子
メーターの並ぶ団地の寒さかな 別府市 渡辺小枝子
はじめての単身赴任冬支度 神戸市 松田薫
一代のめし屋ののれん花八手 門真市 田中たかし
待ちわびる往復書簡秋の庭 池田市 黒木淳子
父も禿げ子も禿げ朝のたき火かな 兵庫 石塚律子
喫茶店長居は無用秋日和 西尾市 岩瀬勇
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年11月30日
◎ 無精髭ほとほと白き夜業かな 名古屋市 山内基成
【軽舟先生評】艱難〔かんなん〕の末に霜が降りたように白くなった髪を歎じたのは中国の詩人杜甫。そして作者は……。
○ 明治草新幹線を仰ぎ見る 豊橋市 河合清
【軽舟先生評】明治草は帰化植物のヒメムカシヨモギ。鉄道草とも呼ばれ、鉄道史を見守ってきた。
ゆく秋や小石混じれる玩具箱 郡山市 佐藤祥子
枕火を姉と守りたる冬初め 奈良市 荒木かず枝
色鳥や社宅の庭の三輪車 大津市 若本輝子
冬銀河再び会ふはかなはぬと 東大阪市 西羅梢
一村の宴のあとの冬田かな 川口市 星野良一
手水舎の水あふれゐる十三夜 田辺市 川口修
谷底の犬の遠吠夜這星 船橋市 村田敏行
牛の値に弾む話や秋祭 にかほ市 細矢てつを
出張の居酒屋出でて月の影 茨木市 遠藤一鳥
夕寒し焼き芋売りののろのろと 秋田市 西村靖孝
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年11月23日
◎ 威し銃谷をへだてて相撃てる 大村市 森宏二
【軽舟先生評】獣による畑の被害が絶えない。谷の向こうも同じらしい。静かな谷に銃声が谺する。
○ 冬隣蒸器のタオル湯気ゆたか 龍ケ崎市 井原仁子
【軽舟先生評】床屋の熱い蒸しタオルが湯気をあげる。確かにこんな時、もうすぐ冬だなと感じる。
銀河淡く天竜もただしづかなる 岡崎市 金田智行
待ち合はす橋のたもとや十三夜 東大阪市 北埜裕巳
本棚に琥珀の洋酒白秋忌 吹田市 末岡たかし
銀座とは名のみの通り鯛焼屋 亀山市 ふじわら紅沙
銀杏散る人生何といふはやさ 大阪市 永井経子
風船葛いち日雨に揺れやまず 町田市 枝澤聖文
無聊なり妻が剥きたる柿喰らふ 調布市 田中泰彦
さえざえと風澄みわたり十三夜 兵庫 櫻井雅恵
受付に木犀香る美術館 彦根市 飯島白雪
老猫が添ひ寝求めし夜寒かな 高槻市 山田すすむ
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年11月16日
◎ 政治家もアナウンサーも赤い羽根 横浜市 大西三恵子
【軽舟先生評】テレビを見ていて、ああ、もう赤い羽根の季節かと気づく。そんな気づき方もあってよい。
○ 村中が見えて柿もぐ梯子かな 大垣市 七種年男
【軽舟先生評】澄み渡った空の下、視界をさえぎるビルもない。収穫の喜びが晴れ晴れと詠われている。
軍艇の舳先鋭角冬に入る 太宰府市 上村慶次
夕刊の差しある戸口柿紅葉 横浜市 宮本素子
白秋の日を照り返すガスタンク 稲沢市 杉山一三
霧に消ゆ砦も町も教会も 西宮市 大谷睦雄
発電機屋台に唸り秋祭 市原市 稲澤雷峯
ロケ隊のバスの去りたる花野かな 東京 吉竹純
秋風の窓のひとつに手を振りぬ 東京 石川黎
鬼灯やランタン揺るる洋食屋 吹田市 坂口銀海
そぞろ寒雨に打たれし万国旗 宮崎市 吉原波路
行秋の山門もなき谷戸の寺 鎌倉市 松崎靖弘
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年11月10日
◎ 父宛の母の恋文十三夜 下関市 小林知吉
【軽舟先生評】妻の恋文をずっと大事にしまっていたのだ。作者には父の意外な一面だったのではないか。
○ 燈火親し晩酌の酔ひ醒めてより 神奈川 中島やさか
【軽舟先生評】ひと眠りして酔いが醒めたら今度は読書だ。秋の夜長をたっぷり楽しむ暮らしぶり。
黄落や鹿角掛くる銃器店 亀山市 ふじわら紅沙
点すほど山霧ふかし巡視道 名古屋市 山内基成
廃業のクリーニング店小鳥来る 岡崎市 矢野久造
電車よりバスに乗りたき柿日和 白井市 毘舎利愛子
稲刈機降り信号の釦押す 日高市 金澤高栄
啄木鳥に寡黙の幹が応へをり 青梅市 中村和男
生涯を名刺無き身の夜学かな 出水市 清水昌子
高台に移りし母校小鳥来る 交野市 近田弘子
身に入むやオペ室前のパイプ椅子 鯖江市 大森弘美
ぬるま湯の半身浴や残る虫 金沢市 泉耿介
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年11月2日
◎ 夜勤終へ霧笛の町に帰りけり 富山市 藤島光一
【軽舟先生評】労働の哀感にあふれた一句。霧の立ちこめた明け方の家路に港から汽笛が響いた。
○ もつさりと裏山暮れぬ秋の蝉 東京 木内百合子
【軽舟先生評】「もつさりと」が山に対してユニークな形容。ぱっとしない地味な裏山だが親しみがあるのだ。
水澄みて午後の校外授業かな さいたま市 根岸青子
金閣に金の鳳凰秋高し 伊丹市 山地美智子
無人駅おりて砂利道虫しぐれ 奈良市 坪内香文
帰宅してすぐに作業衣大根蒔く 西都市 子安美和子
牧師館暗き灯ともす秋の暮 和歌山市 岬十三
がちやがちやや一戸灯れる峠口 大分市 首藤勝二
石膏像デッサン窓の秋日濃し 市原市 稲澤雷峯
名月や心ほぐれし酒二合 尼崎市 松井博介
マシュマロを紅茶に浮かべ秋深し 我孫子市 加藤裕子
美術館出れば目眩む秋の昼 防府市 倉重洋二郎
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年10月26日
◎ 母と子に木犀匂ふ家裁かな 福岡市 三浦啓作
【軽舟先生評】例えば子の親権を争う離婚訴訟。木犀を匂わせたのは作者の優しさだろう。
○ 大皿に秋果を盛りて家族葬 奈良市 荒木かず枝
【軽舟先生評】参列を断る家族葬が随分増えてきた。家族ごとに故人にふさわしいやり方があるのだろう。
棍棒を舟にのこして鮭運ぶ さいたま市 田中久真
西鶴忌天ぷら油首に跳ね 松本市 太田明美
草の花きのふのやうにけふも生き 青森市 小山内豊彦
年寄りを寂しくさせてちちろ鳴く 入間市 大矢勲
月の雨猫の足跡濡れ縁に 恵那市 春日井文康
駅裏の屋台に月見コップ酒 神戸市 田代真一
もず日和コロッケ揚げただけ売れる 一宮市 渡辺邦晴
名月やビジネス街の日曜日 東京 永島忠
グレービーボートのカレーいわし雲 静岡 吉岡千春
星月夜G線上のアリア聞く 清瀬市 飯塚幸彦
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年10月19日
◎ 校正は肩凝る仕事地虫鳴く 東京 野上卓
【軽舟先生評】私たちが書物を読めるのも校正者の苦労のおかげ。季語のせいか活版印刷の雰囲気がある。
○ 背なの子が手に靴をもつ秋出水 羽曳野市 鎌田武
【軽舟先生評】テレビ俳句かもしれないが臨場感たっぷり。親子の様子に作者は胸を打たれたのだろう。
乾きたる出水の芥よりちちろ 仙台市 小林水明
放生会鳩は巣箱に戻りけり 大阪 池田壽夫
風にのり風をのりつぎ秋の蝶 奈良市 坪内香文
自治会の守る名水萩の花 横浜市 宮本素子
電柱の無き空広し鰯雲 日南市 宮田隆雄
雨やみて朝もやの道竹の春 上野原市 小俣一雄
秋の夜や燗をしつかり灘の酒 明石市 岩田英二
早稲の香の湖国のかくれ仏かな 大阪市 吉長道代
英和辞典最後はZZZ秋灯下 龍ケ崎市 清水正浩
秋風の待合室や小海線 三鷹市 土居靖隆
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年10月12日
◎ 駐在の定年近し韮の花 秋田市 神成石男
【軽舟先生評】田舎の駐在所を一人で守ってきたのだろう。韮の白くつつましい花が駐在の人柄を伝える。
○ 霧が霧押す教会の鐘幽か 北本市 萩原行博
【軽舟先生評】「霧が霧押す」の表現に迫力がある。自然の荒々しさと敬虔な信仰の対照が効いている。
仰向けに空を見てゐる子規忌かな 東京 木村史子
秋暁の工業団地道広き 鈴鹿市 岩口已年
盛塩に夜の帳や新酒酌む 太宰府市 上村慶次
実家より移す本籍渡り鳥 福島市 清野幸男
空高し脚で操る象遣ひ 東京 山口照男
蟋蟀やちらりほらりと馴染客 東京 松岡正治
稲刈ると雲は平らにひろがりぬ 津市 田山はじめ
金風や名士の祝辞長かりし さいたま市 田中久真
ちちろ鳴く明日は妻と釣に行く 北九州市 小倉康弘
稲の花田川の水面ひかり増す 鳥栖市 重松石削
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年10月5日
◎ 月光に鉄道草の絮〔わた〕青し 豊橋市 河合清
【軽舟先生評】鉄道草はヒメムカシヨモギ。帰化植物の広がる風景が月光の下で幻想的に見える。
○ それぞれの子を呼ぶ母や芒原 東大阪市 北埜裕巳
【軽舟先生評】なぜか子のいない母、母のいない子に思いを誘われる。芒原の広がりのせいか。
鉦たたき稿の遅れを急かすなり 福岡市 三浦啓作
軽トラの集ふ村民体育祭 熊本市 寺崎久美子
バスの客女ばかりや稲雀 東京 木内百合子
新涼や草のにほひの和蝋燭 郡山市 佐藤祥子
棗〔なつめ〕の実つまむ少女の手の細き 東大阪市 三村まさる
湯の町の銀座すぐ尽く花芙蓉 東京 喜納とし子
檣頭〔しょうとう〕に月の出でたり志賀島 宗像市 梯寛
少年にささやかな夢ばつた跳ぶ 玉野市 松本真麻
校庭は猫の近道夏休み 四国中央市 近藤実
萩こぼる谷中の長き築地塀 さいたま市 佐々木力
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年9月28日
◎ 角曲るとき振返る日傘かな 和歌山市 かじもと浩章
【軽舟先生評】角を曲るまで作者が見送っていることも、日傘の女性が振返ることも、互いにわかっている。
○ 連絡先書いて退職爽やかに 仙台市 小林水明
【軽舟先生評】職場に未練があるわけではない。気持ちは晴れ晴れと人生の次の舞台に向かっている。
母の髪束ねて細し花芙蓉 龍ケ崎市 白取せち
秋の日や大聖堂に車椅子 東京 松岡正治
鰯雲荒縄まるめ鍬洗ふ 国分寺市 越前春生
スナックの小型テレビの残暑かな 横浜市 村上玲子
アインシュタイン永久に舌出す夜学かな 大阪市 山田喜美
鶏頭や靴洗ひをる男の子 和歌山市 西山純子
川霧にわが家の灯うるみをり 鹿嶋市 津田正義
昼食はカップラーメン秋近し 奈良市 坪内香文
青林檎少女かじりし跡残し 彦根市 飯島白雪
氏神の夏の落葉を焚きにけり 唐津市 梶山守
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年9月21日
◎ 男等は北洋にあり大根蒔く 銚子市 久保正司
【軽舟先生評】男等は北洋漁業に勤(いそ)しむ。女等はその間に畑仕事をする。銚子の人々の暮らしぶりを思う。
○ 処女作の小さき破綻黒葡萄 東京 木村史子
【軽舟先生評】小説だろうか。その破綻は書き損じではなく、作者の心の奥底から出た必然だったと思わせる。
攻窯の火の粉止みたる星月夜 茅ケ崎市 清水呑舟
楽団の真白きチューバ涼新た 名古屋市 大島知津
校庭の樟の大樹や終戦日 別府市 渡辺小枝子
つくねんと座したる祖父や盆の月 秋田市 鈴木華奈子
山の端に月車椅子たたみたる 東京 海棠あき
稲咲くやバス北上のまつしぐら 福島市 清野幸男
優曇華や百科辞典のうすぼこり 東京 神谷文子
東京へ帰る子送り盆の月 神戸市 田代真一
ご詠歌の鈴の遅速や地蔵盆 奈良 栗田ひでこ
学生寮窓に灯残る夜長かな 彦根市 松本勝幸
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年9月15日
◎ 木の枝に残るブランコ休暇果つ 神奈川 中島やさか
【軽舟先生評】山荘の庭の手作りのブランコ。子どもたちの歓声を思い出すように風に揺れ続ける。
○ 詰め物に新聞丸め敗戦日 平塚市 藤森弘上
【軽舟先生評】荷造りの隙間に古新聞を丸めて詰める。七十年を経て平凡な日常になった敗戦日の小景。
花火見る一人に広き二階かな 稲沢市 杉山一三
炎天につけ雨につけ整備員 川口市 平山繁寿
緑陰につばさ休めて一輪車 霧島市 久野茂樹
駅弁の蓋の飯粒秋高し 太宰府市 上村慶次
鰻屋の階段けはし一位の実 福岡市 三浦啓作
バンダナに包む弁当小鳥来る 松本市 太田明美
ラーメンに胡椒効かせて秋暑し 玉野市 松本真麻
色街の庇寄せ合ふ大暑かな 奈良市 斎藤利明
夕涼し鳶の舞ひをる伊良湖崎 名古屋市 浅井清比古
幼子の真似て西瓜を叩きけり 鴨川市 冨川康雄
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年9月7日
◎ これまでとこれからと夏暁の空 稲沢市 杉山一三
【軽舟先生評】誰しもこんな気持ちで空を仰ぐ転機がある。作者はもうこれからのことを見据えている。
○ 盂蘭盆の陸〔くが〕打つ波の谺かな 吹田市 末岡たかし
【軽舟先生評】生者が死者を迎える行事の背景をなす自然を雄渾に描いた。切字が朗々と響く。
盆仕度整ひし部屋灯し置く 銚子市 久保正司
朝涼や神棚高き醤蔵 奈良市 斎藤利明
ひとり来て故山の墓を洗ひをり 常総市 前岡博
新涼の耳掻き耳になじみける 由利本荘市 松山蕗州
廃校の壁の校章晩夏光 豊中市 亀岡和子
蜑小屋の裸電球夏果つる 太宰府市 上村慶次
この風の先に教会青芒 北本市 萩原行博
物干しに真白きタオル秋茜 東京 山崎八津子
猛暑日の夜半も火照る足の裏 神奈川 笠原浩二
脛出して麦藁帽子甲子園 鳥栖市 重松石削
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年8月31日
◎ 桃冷ゆるまで水切りを子と競ふ 岡山市 三好泥子
【軽舟先生評】渓流に桃を冷やし、河原の石で水切りをする。思い出に残る夏休みになることだろう。
○ 遠雷やばたばた閉づる土産店 周南市 河村弘
【軽舟先生評】これは夕立になるぞ。観光客そっちのけでいっせいに店先を片付ける様子がおかしい。
古賀政男忌なり楽器屋通り灼け 牛久市 清水秋生
ぐいのみの火襷愛でつ冷奴 入間市 松井史子
老人の大きな夢や雲の峰 奈良市 坪内香文
夏空や旅の三日はすぐ終はる 奈良市 梅本幸子
裏返す秋の団扇の白さかな 鴻巣市 荻野道宏
教会の鐘のひびける日傘かな 宗像市 梯寛
秋澄むや旅の朝餉の銀食器 つくば市 村越陽一
秋風や十歩あゆめば十歩暮る 松原市 西田鏡子
灼くる道灼くる車の蜒蜒と 大阪 池田壽夫
腹這ひになりて本読む夏休 松阪市 松岡信一
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年8月24日
◎ 酔芙蓉今生の紅つくしけり 別府市 藤岡田鶴子
【軽舟先生評】咲き初めは白く次第に紅になって萎(しぼ)む酔芙蓉の花。それは一人の女性の人生のようでもある。
○ 米国に戦後はあらず原爆忌 香取市 嶋田武夫
【軽舟先生評】戦後七十年。自らは戦地となることなく戦争を繰返す米国とは戦後の意味が違うのだ。
蟻の列中国株の暴落す 大阪市 佐竹三佳
サングラス監視カメラを睨〔ね〕めかへす 名古屋市 山内基成
福分けの平包みなり庭涼し 豊中市 後藤慶子
拘置所の点呼の笛や百日紅 太宰府市 上村慶次
妻あての軍事郵便晒しあり 銚子市 久保正司
リヤカーを曳く坂道や蝉時雨 豊橋市 野副昭二
抽斗のリコーダー吹く残暑かな 鈴鹿市 岩口已年
雨止みて沢蟹庭を這つてをり 奈良 岩田まさこ
はまなすや故郷の浜に泣きに来し 富山市 藤島光一
膝丈の簡単服の母素足 八王子市 八王子石虎
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年8月18日
◎ 梅雨明けて任地に夫を訪ねけり 横浜市 村上玲子
【軽舟先生評】単身赴任先の夫を訪ねるのだろう。早くもその土地になじんだ夫の姿がまぶしく見える。
○ 風涼し始業のラジオ体操に 亀山市 ふじわら紅沙
【軽舟先生評】始業前の工場か。中庭に揃ってラジオ体操をする。なつかしく健やかな職場風景だ。
吾亦紅泣いてすむこと何もなし 宇佐市 安倍昭一郎
夕刊に雨の匂ひや半夏生 東京 喜納とし子
カーテンを繰れば炎昼しずかなり 春日市 林田久子
新聞を広げ爪切る大暑かな 東京 野上卓
青竹の切り口匂う半夏雨 静岡市 牧田春雄
ペンキ絵の富士に向かひて髪洗ふ 東京 石川黎
人台に仮縫の服梅雨上る 別府市 渡辺小枝子
デイケアの妻を迎へんさくらんぼ 宇都宮市 中尾硫苦
心配を掛くる親無し夏燕 日田市 豊田直也
遊園地はげたペンキに夏の蝶 彦根市 飯島里湖
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年8月10日
◎ 原発の万丈の壁てんと虫 名古屋市 山内基成
【軽舟先生評】てんと虫に聳える壁は、廃炉までの途方もない歳月のよう。それでも攀(よ)じ登るしかない。
○ 籐椅子の凹みや父の夢の跡 東京 東賢三郎
【軽舟先生評】父が愛用した籐椅子。今は作者が身をゆだね、父の見た夢の先を紡いでいるのだろう。
眠さうな母を寝かせて月見草 龍ケ崎市 白取せち
新聞の肱にひつつく暑さかな 東京 山口照男
小説の明治は遠く鴎外忌 神戸市 森川勧
妻といふ女ありけり枇杷の種 宇都宮市 大渕久幸
少年のミサに遅れし靴白し 大村市 森宏二
花火終へ小さな浜に戻りけり 松原市 西田鏡子
操車場あと夕風の姫女苑 吹田市 末岡たかし
旅先の床屋に入る夏神楽 東京 藤沢弘樹
理容院都合四日の盆休 札幌市 村上紀夫
迷子札見せる迷子や夏祭 長岡市 柳村光寛
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年8月3日
◎ 先頭を行く蟻見たし蟻の列 大村市 森宏二
【軽舟先生評】そう言えば蟻の列の先頭というものを見たことがない。どんな面構えで列を率いているのか。
○ 畳にて目覚し鳴れる帰省かな 東京 氣多恵子
【軽舟先生評】ふだんはベッドで暮らしているのだろう。畳の上で鳴る目覚し時計に帰省の実感がある。
紫陽花や明るき声に雨上る 吹田市 坂口銀海
ひまはりの直立不動無人駅 山口市 池岡火帆
梅雨寒や人それぞれの通勤着 東京 石川昇
上手い話信じぬ母と麦茶飲む 清瀬市 峠谷清広
蓮の花五重塔を遥かにす 東京 永島忠
紫陽花や受話器の向かう雨が降る 東京 紫野春
川沿ひのマンション群や行々子 多賀城市 矢崎英敏
掛け直す額の賞状夏座敷 鴨川市 冨川康雄
風薫る湖の木陰の古き椅子 京都 千賀壱郎
静かなる年金暮らし単帯 飯能市 野村茂子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年7月27日
◎ 蟻地獄年寄り顔を寄せゐたり 市原市 稲澤雷峯
【軽舟先生評】老人が蟻地獄を覗きこんでいる。何人かが顔を寄せ合って覗きこんでいるようでもある。
○ 甲斐性なき男サングラスが似合ふ 日向市 内田遊木
【軽舟先生評】気障な出で立ちの様になる男。甲斐性なしだとわかっていても放っておけないらしい。
明易しノートにペンを放りだす 小田原市 村場十五
廃鉱の島の瓦礫や雲の峰 明石市 久保勲
遠雷や妻の手術の日の決まる 山陽小野田市 平原廉清
紫陽花や予報通りに雨の音 水戸市 安方墨子
紫陽花や坂道多き陶の町 京都市 小川舟治
炎天や岸壁に寄る油槽船 明石市 岩田英二
列島の天気晴朗昭和の日 四国中央市 近藤実
緑蔭や図書館前の木のベンチ 藤沢市 青木敏行
沈んだつてかまはないんだ浮いてこい 羽曳野市 北山史人
暇人の昼の銭湯夏柳 東京 樋口ふさ子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年7月20日
◎ 夕暮は忘却の色桐の花 日高市 落合清子
【軽舟先生評】一日のすべてを忘れ去るように夕空が色を深める。暮れ残る桐の花がひときわなつかしい。
○ 有平棒廻り始める朝曇 仙台市 小林水明
【軽舟先生評】床屋の有平棒が廻り始めると、静かな商店街も少し活気づく。今日も暑い一日になりそう。
昼顔や木橋朽ちたる村境 新居浜市 正岡六衛
警策の僧羅〔うすもの〕をからげ立つ 大牟田市 山口正男
お師さんを迎ふる水を打ちにけり 奈良市 荒木かず枝
父の日や日記三行あれば足る 香芝市 矢野達生
あぢさゐを活けてひばりの忌を修す 小平市 土居ノ内寛子
打ち水や夫婦の守る鮮魚店 調布市 佐藤悠紀子
網戸入れ夫亡きあとのひとりの身 宮崎市 十河三和子
らつきようも梅も漬け終へ映画見に 東京 松崎夏子
束の間に暮れゆく空や合歓の花 那珂市 小宅進
唸る波玄界灘の梅雨けむり 八王子市 堀青子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年7月14日
◎ 湘子の沖草田男の沖炎天下 松原市 西田鏡子
【軽舟先生評】「愛されずして沖遠く泳ぐなり」「玫瑰や今も沖には未来あり」、そして作者の見つめる沖。
○ 風鈴もうつらうつらの音色かな 坂戸市 浅野安司
【軽舟先生評】真夏の昼下り。ときどき思い出したように風鈴が鳴る。もちろん作者もうつらうつら。
蒸し暑し裸電球土間照らす 宇治市 原智夫
黒南風や灯りて暗き喫煙所 東京 尾上恵子
船笛は太く短く鴎外忌 東京 吉田かずや
足で足こすり洗ふや早女房〔さにょうぼう〕 亀山市 ふじわら紅沙
父の日や兄にたづねし父の夢 香取市 数合信也
花を買ふための外出や梅雨最中 日向市 内田遊木
梅雨寒の明るきものに妻のこゑ 水戸市 安方墨子
甲高き香具師の口上梅雨晴間 東村山市 岡崎多加之
五月雨やたつた一人の映画館 下関市 堤宏夫
ねそべりし犬の鼻先石たたき 京都市 橋口清人
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年7月6日
◎ 日盛や街蚕食の駐車場 東京 木内百合子
【軽舟先生評】空家や空店舗が壊されると駐車場になる。街を食い荒らすような蚕食の比喩が真に迫る。
○ 雑巾のやうな野良猫さみだるる 玉野市 松本真麻
【軽舟先生評】「襤褸(ぼろ)切れのよう」では慣用句。雑巾として作者自身の目が感じられた。抱いて帰ったか。
手を掛けてひとりの昼餉若葉雨 神奈川 中島やさか
紫陽花や癒えたる妻の薄化粧 茅ケ崎市 清水呑舟
小綬鶏の声そこここに売家あり 須賀川市 木村繁子
蟻曳くや立て直しては蝶の翅 国分寺市 越前春生
浜木綿や廃船にある羅針盤 和泉市 白井恭郎
泣きやまぬ赤子抱きて夕薄暑 入間市 中村恵子
ひきがへるチニハタラケバカドガタツ 川越市 峰尾雅彦
晩春や世間に生きて切手買ふ 調布市 田中泰彦
青嵐迦陵頻伽も跳ぶ構へ 福岡市 後藤啓之
縁側によき風来たり胡瓜もみ 下妻市 神郡貢
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年6月29日
◎ 葉桜や献血車より菜つ葉服 和歌山市 西山純子
【軽舟先生評】菜つ葉服とは労働者の作業服。昼休みにでも立ち寄ったか。その生き方を応援したい。
○ 寂しいか片陰の猫腹へつたか 東京 四倉ハジメ
【軽舟先生評】片陰の猫に呼びかける。気が付くとそれは自分自身への呼びかけになっている。
水打つて女将遠くの空眺む 東大阪市 三村まさる
一円玉ひかる蛙の目借時 ひたちなか市 衛藤稚春
神職の脚立に立ちて実梅〓ぐ 大阪市 井上敦子
川舟の櫓臍きしみて夕薄暑 大田市 森井晃一
紫陽花や午前の小雨午後の晴 周南市 河村弘
時の日やきのふの録画早送り 東京 永井和子
とほくより雨匂ひ来る網戸かな 町田市 枝澤聖文
沖をゆく漁船一隻夏つばめ 青森市 小山内豊彦
法事終へタクシーを待つ白日傘 舞鶴市 秋山よし子
ベビーカー木蔭に寄せる薄暑かな 静岡 小池秀子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年6月22日
◎ いつの間に同じ飴色竹夫人 八王子市 間渕昭次
【軽舟先生評】新しい竹夫人がいつの間にか古い竹夫人と同じ飴色。歳月はいつの間にか過ぎてゆく。
○ 空蝉や少年脱皮くりかへす 和歌山市 かじもと浩章
【軽舟先生評】会うたびに大人びて作者を驚かす少年。蝉の残した殻を見て、ふとその少年を思い出した。
水中花蝶くることを信じをり 東京 金子文子
風薫るサスペンダーのY字の背 東京 木村史子
ほろほろと男泣く酒夏灯 白井市 毘舎利道弘
終電の出れば灯を消す天使魚 東京 野上卓
どんたくや蝙蝠傘を腕に掛け 福岡市 三浦啓作
囀りや洋菓子の名のややこしく 大阪市 中岡草人
墓の名の一人は朱文字桐の花 川越市 益子さとし
岬宮の幣白々と夏に入る 藤沢市 関口あつ子
漫然と卯の花腐しひと夜聞く 土浦市 大和田豪
飛行灯ひとつまぎれて星涼し 宇都宮市 中尾硫苦
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年6月16日
◎ 日本はどこへ行くのか蟻の道 羽曳野市 豊田裕世
【軽舟先生評】行く先がわからないから不安が募る。蟻の列をじっと見ていると、自分もその一匹のよう。
○ 子雀をしきりに呼ぶや親雀 松阪市 山中ひろし
【軽舟先生評】まだ飛ぶ力の弱い子雀か。作者自身の子育ての昔を思い出して、ふいに目頭が熱くなる。
立葵嗤〔わら〕ふ奴には嗤はせて 熊本市 寺崎久美子
子の汗を拭ふ沖縄復帰の日 名古屋市 大島知津
すだ椎の小暗き樹下や鳥の恋 東京 神谷文子
雨迫る早暁の山ほととぎす 奈良市 渡部弘道
薫風や女主人のほつれ髪 埼玉 町田節子
小皿にはくぎ煮遺影の妻と酌む 奈良 中川潤二
隠沼〔こもりぬ〕はすでに影濃し夏来る 岡崎市 金田智行
自転車を肩でこぎたり青嵐 秋田市 鈴木華奈子
日時計の影が移れるリラの花 堺市 志賀克毅
新緑や地学の時間雲母見る 東大阪市 西羅梢
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年6月8日
◎ 地下街も雨の匂ひや桜桃忌 玉野市 松本真麻
【軽舟先生評】太宰治が玉川上水で心中したのは六月十三日。梅雨時の鬱陶しさが地下街にも立ちこめる。
○ 夏場所や額に分くる藍暖簾 東京 木内百合子
【軽舟先生評】人物は力士ではなく作者自身と読んでよいだろう。本場所で賑わう両国あたりの料理屋か。
鏡落ち砕け散りたり春の空 稲沢市 杉山一三
玉苗にすがる井守の腹赤し 津市 本多一
鬱の手にかなぶん這はせ妻若し 奈良市 荒木かず枝
母の日や花屋も吾も母の無き 流山市 小林紀彦
老農の仕草間〔ま〕鈍〔のろ〕し麦の秋 常総市 前岡博
夕薄暑仕出弁当匂ひけり 入間市 松井史子
先生も髪さつぱりと更衣 由利本荘市 松山蕗州
春蚊出て話の腰を折られけり 周南市 木村しづを
降り止まぬ柿の花また庭を掃く 厚木市 石井修
通り抜け禁止の札やつばくらめ 神戸市 三浦皓子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年6月1日
◎ 麦秋やボヤより帰る消防車 東大阪市 北埜裕巳
【軽舟先生評】野次馬も集まって田舎町は一時騒然。幸いボヤで済み、何もなかったように日常が戻る。
○ 梅雨寒や酒場に本を忘れたる 吹田市 坂口銀海
【軽舟先生評】酒場で一人本を読みふけるのが愉しみ。少し飲み過ぎたか、家に帰ったら鞄に本がない。
風薫る空へ空へと観覧車 愛西市 坂元二男
初蝶や仕立て下ろしのソフト帽 水戸市 安方墨子
つばくろやのこぎり屋根をかすめとぶ 東京 喜納とし子
終演の上野の森の新樹かな 松本市 太田明美
居酒屋にいつもの灯り走り梅雨 米子市 杉原徹勇
音読の声重なれり青嶺立つ 東村山市 竹内恵美
夕暮れの街角に立つ夏近し 上野原市 小俣一雄
三食を筍飯で通したり 昭島市 宮下龍巳
遠目にもカラーの白し新社員 東京 尾上恵子
啓蟄や一人二人と畑に出づ 一関市 佐藤泉
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年5月25日
◎ リラ冷や連休明けの時計台 神戸市 田代真一
【軽舟先生評】札幌の時計台だろう。ゴールデンウィークの賑わいも去り、ふだんの街の表情になった。
○ 花水木手を挙げ妻に応へたり 水戸市 安方墨子
【軽舟先生評】街中で妻に出くわした。先に気づいた妻に夫が応える。挙げた手に気づくと照れくさい。
降下するヘリの風圧樺の花 大阪市 佐竹三佳
風やんで新樹明るき日暮かな 羽生市 小菅純一
今生の残花に風雨容赦なく みやま市 紙田幻草
関山や道白くして遅ざくら 枚方市 竹内昭夫
雀隠れスコップの土洗ひけり 八王子市 田谷敬子
朝五時のニュース清しやゆり匂ふ 鈴鹿市 岩口已年
木苺の花や川瀬に稚魚の群 市原市 稲澤雷峯
羅〔うすもの〕や汀に寄する朝の波 福岡市 三浦啓作
小さき子ととことん遊ぶ端午の日 川口市 平山繁寿
寅さんの全話見終はり春さびし 東京 藤沢弘樹
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年5月18日
◎ タクシーの嫌がる坂や菜種梅雨 一宮市 渡辺邦晴
【軽舟先生評】作者の家に向かう坂なのだろう。「タクシーの嫌がる」で狭く急な坂道が目に浮かぶ。
○ 藤咲くや鄙に嫁ぎし京女 長崎市 田中正和
【軽舟先生評】田舎に嫁に行っても都で身に着いた振る舞いにはどこか華がある。藤の花が似つかわしい。
女房とふたりの夕餉蜆汁 神戸市 森川勧
荷風忌や沓脱石にハイヒール 東京 氣多恵子
流れゆく落花の下の緋鯉かな 東京 今泉忠芳
花を買ふ男ひとりの春の夜 奈良市 佐々木元嗣
腥き畦の煙や竹の秋 洲本市 小川吉祥子
寺町の辻のスナック竹の秋 秋田市 神成石男
峠への一本道や夕蛙 明石市 岩田英二
肝心なときに出ぬ名や葱坊主 平塚市 藤森弘上
春の雨羽のあるもの皆休む 周南市 藤井香子
群衆の誰かが犯人鳥曇り 清瀬市 峠谷清広
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年5月11日
◎ 母の日のさざ波ひかる忘れ潮 吹田市 末岡たかし
【軽舟先生評】磯に残った潮だまり。風が吹いてさざ波が立つ。母への思いを投影したなつかしい叙景。
○ 島を出ることが遠足船速し 北本市 萩原行博
【軽舟先生評】島の小学校の遠足である。港を出て速度を上げる船に目を輝かす子どもたちがいる。
桜蘂降る振り向かず俯かず 神奈川 中島やさか
八千草に雨やはらかき弥生かな 豊中市 亀岡和子
柏餅息子の顔も忘れたり 大和市 千葉喜久子
栄転の先も窓際四月馬鹿 藤沢市 田中修
放哉と井泉水と冷し酒 東京 東賢三郎
絎台〔くけだい〕にひねもす母や沈丁花 名古屋市 山内基成
春風や打解け顔の饅頭屋 東京 橘田麻伊
戦争を好む政治家草矢打つ 宮城 藤井儀和
本堂に一筋の香冴返る 青森市 〓野達男
春の海母を偲びてまどろみぬ 平塚市 原道雄
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年5月4日
◎ 廃船の深き吃水水母寄る 和歌山市 岬十三
【軽舟先生評】繋留されたまま長く放置されているのだろう。「深き吃水」に船の嘆きが聞こえるようだ。
○ 退りつつ使ふ塵取遅桜 東京 木内百合子
【軽舟先生評】「退りつつ使ふ」が的確な写生。晩春の庭のたたずまいが目に浮かぶ。
草川の橋の眺めや春夕焼 千葉市 新原藍
囀りや公園の木々名札下ぐ 水戸市 安方墨子
背表紙の傷みし字引花の雨 姫路市 板谷繁
リラ冷えを老に残して雨上る 可児市 金子嘉幸
屋根替や村に川音高鳴りて 富士宮市 渡邉春生
結界の石の冷たし山桜 奈良市 荒木かず枝
何を捨て何を残すや兼好忌 下関市 石田健
花筵にも自ら上座あり 銚子市 久保正司
花の雨食べ終へし子の走りをり 東京 中嶋憲武
うららかな日差しの中で猫眠る 東京 佐藤千帆
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年4月28日
◎ 奈良漬に添へし旅信や春の雲 福島市 清野幸男
【軽舟先生評】奈良の旅か、楽しそうだな。奈良漬をかじりながら、作者も旅に出たくなっている。
○ 八重桜国内線に乗り替へる 宍粟市 宗平圭司
【軽舟先生評】海外から成田空港に着き、国内線に乗り替えて帰途に着く。八重桜の咲く日本がなつかしい。
啓蟄や畳の下の新聞紙 行田市 新井圭三
長梯子下る庭師の手に古巣 国分寺市 越前春生
明日送る小さき荷物や夕桜 東京 上川畑裕文
うららかや自転車で来て畑を打つ 奈良市 梅本幸子
との曇る岬に卯波きりもなし 松江市 曽田薊艸
白樺の淡き木立や木の芽雨 奈良 高尾山昭
茶碗酒眼下に花の蔵王堂 奈良市 上田秋霜
万馬券当てて桜は二分咲きに 調布市 田中泰彦
うぐひすや日の当りたる古墳群 今治市 井門さつき
近道の線路づたひや甘茶寺 大阪市 城山小代子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年4月20日
◎ 苗木植うスコップの肩強く踏み 仙台市 小林水明
【軽舟先生評】立派に育てよ。スコップの肩をぐっと踏む力に作者の願いも籠められているようだ。
○ 幸せか幸せだつたか椿落つ 松原市 西田鏡子
【軽舟先生評】今は幸せか、これまでは幸せだったか、畳み掛ける自問に読者も思わず自分を省みる。
文旦や滄波隔つる桜島 福岡市 三浦啓作
社友誌に同期の訃見る鳥曇 高萩市 小林紀彦
峠越ゆ次の峠に霞立ち 姫路市 板谷繁
子が吹けば爺が目で追ひ石鹸玉 藤沢市 田中修
病室にハンガー二本春の雪 別府市 渡辺小枝子
風光るハモニカ捜す小抽斗 米子市 永田富基子
惜春や旅の一日すぐ終る 由利本荘市 松山蕗州
燕来る無人の駅の切符箱 大牟田市 山口正男
裏町の古屋こぼたれうららけし 大阪市 井上敦子
折畳椅子ひとつある春野かな 高槻市 東谷直司
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年4月14日
◎ 夜桜や老妻にして手をつなぐ 東京 小暮惠三
【軽舟先生評】「老妻と手をつなぐ」では甘い。「老妻にして」の言い回しに含羞と慈しみがある。
○ 街朧売りたる実家その先に 龍ケ崎市 白取せち
【軽舟先生評】この先にあるとわかっていても行くのはためらわれる。思い出は思い出のままがよい。
足裏のふれし板の間春隣 入間市 安原勝広
うららかや花にそれぞれ花言葉 香芝市 矢野達生
青白き夜の塾生沈丁花 名古屋市 鈴木幸絵
鮭汁の今朝の鹹さや多喜二の忌 水戸市 安方墨子
雨の日のひとりはさみし風信子 日向市 内田遊木
一片の雲もなき空春愁 秋田市 鈴木華奈子
畑返す老いの一振り狂ひなし 兵庫 井上節夫
風荒の坂難儀なる虚子忌なり 小田原市 村場十五
啓蟄やこもりて好きな本を読む 新発田市 佐藤昌子
閉鎖せし工場の門春愁 茨城 石川昌利
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年4月6日
◎ 城壁の中の学校山桜 西都市 子安美和子
【軽舟先生評】明治の御一新の後、郷土の優秀な人材を送り出そうと設立された名門校が目に浮かぶ。
○ 韃靼の蹄の音や霾〔よな〕ぐもり 国分寺市 伊澤敬介
【軽舟先生評】黄沙の降る空を仰ぎ、遥かな黄土地帯を駆け抜けた騎馬民族の馬蹄の響きに思いを馳せる。
掛軸の桃源郷も霞かな 大阪 池田壽夫
二月堂三月堂と青き踏む 銚子市 久保正司
家計簿に挟む半券夕永し 周南市 藤井香子
かき揚げに蕎麦つゆ染みて春寒し 東京 種谷良二
啓蟄や浪人生の無精髯 東大阪市 北埜裕巳
遠くから響く鐘の音風信子 我孫子市 加藤裕子
日が替はりラジオを切れば春の雨 鈴鹿市 岩口已年
目測で計る樹高や春祭 秋田市 嶋田由紀夫
春愁や明け方にみる父の夢 熊本市 寺崎久美子
桃咲くや草に埋れし遊女塚 岡崎市 矢野久造
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年3月30日
◎ 大空も海も暮れきる放哉忌 東京 東賢三郎
【軽舟先生評】尾崎放哉が小豆島の寺の庵で死んだのは四月七日。「暮れきる」にその人生が暗示される。
○ 囀〔さえずり〕に明けては暮るるケアハウス 大阪狭山市 江草純子
【軽舟先生評】単調に見える老人施設の生活にも季節は確かに巡るのだ。自然に随順した穏やかな余生。
眼鏡打つ雪解雫や〓〔ぶな〕の道 東京 山口照男
分校の閉校式や花の雨 東大阪市 三村まさる
梅日和法事済ませて散り散りに 牛久市 中村栄子
誰とでも分け隔てなく春の月 宇都宮市 大渕久幸
初恋の人は年上桃の花 岡山市 三好泥子
引鴨のまだ見えてをり夕茜 加賀市 正藤宗郎
病む心春のひかりは誰にでも 貝塚市 山口尚子
何するにあらねど老に日脚のぶ 観音寺市 清水正子
草間より昇りし雲雀昇り切る 糸島市 古賀浩一
白粥のひと口づつや笹子鳴く 東京 海棠あき
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年3月23日
◎ 春潮や全島さたうきびの波 長岡京市 みつきみすず
【軽舟先生評】句またがりの大らかな調べから砂糖黍畑と珊瑚礁の海を目の当たりにした感動が伝わる。
○ 赴任地の最終勤務木の根開く 一宮市 渡辺邦晴
【軽舟先生評】雪国の根雪がゆるみ始めた矢先の辞令。この土地への愛着と次の赴任地への期待が交錯する。
しづしづと硝子曇りて春の雪 東京 吉竹純
黒板に雨ニモマケズ卒業す 久慈市 和城弘志
ふらここやひつそり逝きしコメディアン 川越市 峰尾雅彦
春浅し木に登れる子登らぬ子 佐倉市 戸塚伊昫雄
ラーメンに列なす人や鳥雲に 北本市 萩原行博
竹やぶを抜け無住寺の寒椿 奈良市 石田昇己
竹林に射し込む夕日春浅し 東大阪市 北埜裕巳
探梅やポケットに指冷えてをり 鯖江市 木津和典
薪を割る男の背中雪催〔ゆきもよい〕 ひたちなか市 衛藤稚春
生欠伸妻に移りて春隣 防府市 江山豊
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年3月16日
◎ 浮かれ猫月の裏より現れし 可児市 金子嘉幸
【軽舟先生評】陋巷(ろうこう)に大きな月が昇る。その月の裏から現れたようだとは恋猫の浮かれようを捉えて痛快だ。
○ 春隣米を研ぐ手に水ほぐる 宇治市 原智夫
【軽舟先生評】米を研ぐうちに冷たい水がほぐれてくる。毎日繰り返す営みにふと春も近いと感じたのだ。
習作のスケッチの束春の星 東京 木村史子
血の色の小さき寒灯カテドラル 水戸市 安方墨子
音のなき雨や翁忌嵐雪忌 洲本市 小川吉祥子
三椏〔みつまた〕の花や蕎麦屋の白襷 松本市 太田明美
寒の雨郵便局の灯は点り 我孫子市 加藤裕子
潮溜りひとつひとつに風光る 京都市 石川かおり
探梅の水辺薬莢拾ひけり 市原市 稲澤雷峯
強東風〔つよごち〕や潮入川の波荒き 水戸市 安達とよ子
玄関に腰を下ろして春を待つ 砂川市 光安澄子
春の空爆音低く聞こえける 所沢市 水口進
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年3月9日
◎ 日めくりをめくる楽しさ日脚伸ぶ 苫小牧市 吉田京子
【軽舟先生評】寒さは厳しくても日が伸びれば気分は明るくなる。楽しみな予定が近づくなら尚更。
○ 暗算のはやき母なり鳥雲に 横浜市 村上玲子
【軽舟先生評】年老いても暗算だけは早い。算盤を使って商売をしていたか。母の生涯が背景に広がるよう。
水仙や昂ぶりやまぬ海の紺 周南市 河村弘
冴返る男ばかりの喫煙所 神奈川 中島やさか
東尋坊大寒の波駈け登る 吹田市 竹岡江見
もつきりをたのむ小上り春の雪 入間市 松井史子
闘士たりし眉も霜置く冬帽子 高崎市 猿渡道子
呼べばすぐ来るタクシーや春隣 青森市 小山内豊彦
日向ぼこ膝に顎乗せ爪を切る 愛知 平松桂
鶴引くや高みに長き棹なして 出水市 清水昌子
ストーブの上に鍋おき子守する 近江八幡市 満嶋かおり
ばらの芽や経済学の厚き本 調布市 万木一幹
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年3月2日
◎ 生コンのホース波打つ二月かな 川口市 狩野睦子
【軽舟先生評】風流韻事だけが俳句の素材ではない。殺風景な建築現場に春の訪れを力強く捉えた一句。
○ 母子寮の窓ふくよかに梅匂ふ 常総市 前岡博
【軽舟先生評】それぞれの事情を抱えて入居している母と子どもたち。梅の香りは作者のやさしさの現れだ。
バレンタインデーもぐらの土のほつこりと 船橋市 小澤光世
妣の国の篝火見ゆる寒茜 所沢市 山本泥牛
ボート屋の腰伸ばしをり春隣 東京 野上卓
雪もいいものだ本読み手紙書き 東京 喜納とし子
少年は雨に走らず冬木の芽 大阪市 佐竹三佳
駅そばの海老天小さし冬の暮 堺市 野口康子
足踏みしバスを待つ子の息白し 下野市 和田正
曳き売りの花烏賊捌く路地の奥 鎌倉市 鳥飼伊知郎
寒鯉や妻の旧姓武田なり 大東市 川口寿通
有明の月白くして霜の花 山陽小野田市 平原廉清
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年2月23日
◎ 冬濤の顎引いて立ち上がりけり 東京 望月清彦
【軽舟先生評】「顎(あご)引いて」は擬人化だが、確かに見たという手応えがある。写生の目が利いているのだ。
○ 関帝の蝋燭赤し春の雪 姫路市 板谷繁
【軽舟先生評】三国志の英雄関羽を祀る廟。中華街の派手な色彩に春の雪が似合う。春節の賑わいも近いか。
死はこはく生はさみしき老の冬 いわき市 坂本玄々
絨毯の赤きロビーや多喜二の忌 大阪市 中岡草人
折紙の裏は真白し春炬燵 平塚市 藤森弘上
雪晴や卒塔婆に止まる大鴉 和泉市 白井恭郎
下町に裁縫教へ針供養 藤沢市 杉野子太郎
牛乳とあんぱん一つ帰り花 宇都宮市 大渕久幸
寒すずめ砂浴びをして飛び立ちぬ 神奈川 大久保武
冬日中犬の毛を梳く少女かな 吹田市 三島あきこ
風花やいやがる犬を丸洗ひ 福島 金成幸枝
寒梅に今朝気づきたり厨窓 相模原市 真田ふさえ
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年2月16日
◎ 冬銀河すでに夜明を感じをり 大田市 森井晃一
【軽舟先生評】揺るぎない暗闇にも夜明が近い気配は感じられる。真冬の銀河が大きく息をするようだ。
○ 国老いて嵩む借金雪下し 水戸市 安方墨子
【軽舟先生評】「国老いて嵩む借金」は偽りない日本の姿。何くそという気持ちを込めて屋根の雪を下ろす。
石削〔はつ〕る鑿の火花の寒さかな 龍ケ崎市 清水正浩
雪晴やたたみて小さき妻の傘 神戸市 田代真一
一月の風の群がる夕べかな 愛西市 坂元二男
ゴムタイヤ潰〔へしや〕ぐリアカー蕗の薹 鈴鹿市 岩口已年
尼寺に赤子の育つ冬の蝶 国分寺市 越前春生
道化師は帽子の手入日脚伸ぶ 入間市 中村恵子
涸川を渡りて町へ酒買ひに 羽生市 小菅純一
不忍の鴨帰るなりうすぐもり 東京 小暮恵三
冬の夜やシェイクスピアのラジオ劇 神戸市 松田薫
冬うらら手押し車に腰をかけ 和歌山 馬谷富貴子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年2月10日
◎ 大寒や白馬の如き波がしら 銚子市 久保正司
【軽舟先生評】雄勁(ゆうけい)な比喩だ。寒気を轟かせ、まるで鬣(たてがみ)をなびかせた白馬のように颯爽と波頭が寄せる。
○ 凩や電車賃にもならぬ利子 東京 喜納とし子
【軽舟先生評】駅前の銀行で定期預金の記帳でもしたところか。「電車賃にもならぬ」の具体性に実感あり。
枯菊や犬にやさしき男の手 水戸市 安方墨子
日だまりの椅子を離れぬ冬の蜂 明石市 岩田英二
樹氷林ケーブルカーは碧空へ 鈴鹿市 岩口已年
カーテンに遊ぶ鳥影七日粥 生駒市 山村修
長寿とはめでたきことか冬の蜂 長崎市 田中正和
日向ぼこ巨艦のごとき母なりし 大津市 西村千鶴子
又別の雲来て遊ぶ桃の花 沼津市 堀野一郎
雨あとの空は縹〔はなだ〕になづな粥 吹田市 末岡たかし
途中からマフラー腰に巻く散歩 奈良市 岸野春子
保育所へ急ぐ母子の耳袋 三木市 磯田信
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年2月2日
◎ 非正規も正規も同期おでん酒 名取市 里村直
【軽舟先生評】正社員、契約社員、嘱託社員、派遣社員…。身分は違っても同期入社、現代の職場風景だ。
○ 声掛けて配る区報や冬木の芽 松本市 太田明美
【軽舟先生評】一人暮らしの老人の見守りを兼ねて区報を配る。地域を良くしたい思いが季語に表れた。
風花や餌台の鳥の入れ替り 岸和田市 岩田公子
漂白す仕事納のマグカップ 東京 木村史子
湖近き観音堂へ霜の道 大阪市 吉長道代
松籟を聞く砂浜の寒さかな 藤枝市 山村昌宏
缶詰をぱかんと開けて開戦日 逗子市 若杉小兵衛
空青く海青き丘冬たんぽぽ いわき市 坂本玄々
初雪やカフェの重たきマグカップ 横浜市 村上玲子
数へ日の窓磨きつつ空見つつ 秋田市 鈴木華奈子
がたがたと雨戸を開けて開戦日 神奈川 藤堂次郎
初詣拍手強く父となる 羽曳野市 豊田裕世
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年1月26日
◎ 地球儀の七つの海やクリスマス 東京 木村史子
【軽舟先生評】大航海時代に思いを馳せ、人種も風土も違う世界中の人々とともにクリスマスを祝う。
○ 天領の紙漉小屋の軒高し 藤枝市 山村昌宏
【軽舟先生評】昔ながらの製法で和紙を漉(す)く。「軒高し」という構えに天領の矜持(きょうじ)が示されているようだ。
地下酒場長靴の雪落としけり 奈良市 荒木かず枝
茎の石猫の墓石となりにけり みよし市 稲垣長
鯛焼の箱しなしなと終電車 吹田市 坂口銀海
灯を返す肉屋の鏡大晦日 小平市 十居ノ内寛子
雀きて家居しづかな師走かな 東京 喜納とし子
煮魚の血合がうまし冬の暮 周南市 藤井香子
裏川の水神様や葱洗ふ 神奈川 新井たか志
硝子器の木端微塵の寒気かな 東京 東賢三郎
中古車に金のモールや空つ風 東京 氣多恵子
大空を鶏鳴わたる冬至かな 吹田市 末岡たかし
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年1月19日
◎ 遊説の声の奔〔はし〕れり冬田道 つくば市 村越陽一
【軽舟先生評】選挙カーのウグイス嬢が人気(ひとけ)のない冬田の中でも連呼を惜しまない。選挙戦もいよいよ終盤。
○ リビングが夫の書斎や室の花 日高市 滝秀子
【軽舟先生評】書斎のない夫が最近はリビングで何やら熱心に勉強している。それを見守る妻の視線がよい。
越して来し隣家に赤子春隣 東京 吉田かずや
眠る子に薄きまぶたや雪催〔ゆきもよい〕 周南市 藤井香子
綿虫のわつと町内案内図 水戸市 安方墨子
傘借りて外湯めぐりや夕しぐれ 和歌山市 かじもと浩章
暖炉燃ゆ山のホテルの読書室 松本市 太田明美
女傘借りて僧立つ村時雨 千葉市 畠山さとし
大白鳥翔ちて日の出の連山へ 前橋市 吉藤青楊
沖合に残る明るさ片時雨 大分市 松田紀子
顔見世のかへりの道や鰊蕎麦 京都市 土井令子
年金の暮し身につき年用意 八千代市 高橋みち子
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年1月12日
◎ 映りたきものを拒まず冬の水 青森市 小山内豊彦
【軽舟先生評】すべてのものを克明に映す冬の水。草田男の「冬の水一枝の影も欺かず」とはまた別の切口。
○ 冬の雨映画一本見て帰る 大阪 池田壽夫
【軽舟先生評】寒々とした雨の帰り道。それでも心の中は今見た映画の印象で温もっている。
宇陀口の小鍛冶の打てる鼬罠 津市 本多一
鯨来るすべて投げ出したくなる夜 熊本市 寺崎久美子
寒夜なり箸割つて待つ駅の蕎麦 松本市 太田明美
寒昴葉書と酒を買ひに出る 鈴鹿市 岩口巳年
焼芋や市場の角に椅子二つ 常陸大宮市 笹沼實
犬のこゑ噛みついてくる寒夜かな 松原市 西田鏡子
家路の灯年末賞与明細書 東京 木村史子
正面の富士暮れゆける暖炉かな 小田原市 守屋まち
初雪や深きカップのミルクティー 名古屋市 大島知津
夜焚火にベテルギウスの火を加ふ さいたま市 齋藤正美
◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2015年1月5日
◎ 凩や父に似てきし咳払ひ 京都市 小川舟治
【軽舟先生評】年をとるにつれて子は親に似てくるもの。咳払いが似れば人柄まで父に似てきたと思われる。
○ 吾を待つ男の傘や近松忌 東京 木内百合子
【軽舟先生評】雨の中で自分を待つ男の姿が雑踏に見えた。近松忌を配して悲劇の予感が漂い始める。
一歩づつ音楽しみぬ冬の庭 明石市 小田慶喜
向き合ひて手話の二人や暖房車 東京 木村史子
マグカップ両手で包み雪の窓 秋田市 鈴木華奈子
八歳のときの傷なり鎌鼬〔かまいたち〕 福島市 今野美子
小春日や喪中葉書に返し文 島根 高橋多津子
母病んで父の遺影の冬日かな 流山市 小林紀彦
食初のあてこの白し春隣 奈良市 荒木かず枝
薪割るや森の中なるレストラン 羽生市 小菅純一
下町の隣は近し石蕗の花 川口市 渡邉しゅういち
村中で蒲団干したり叩いたり 北本市 萩原行博2015