毎日俳壇 | 小川軽舟選 2016年

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年12月26日

◎ 七人の敵すでに無き小春かな 和歌山市 かじもと浩章
【軽舟先生評】家を出てももう「七人の敵」はいない。競争社会をリタイヤした安らかさと一抹の寂しさ。

○ 冬の夜の切磋琢磨の湯玉かな 別府市 渡辺小枝子
【軽舟先生評】鍋の湯が煮えたぎって次々に湯玉が沸く。互いに切磋琢磨するようだとの見立てに納得。

しぐるるやハチ公前のまちぼうけ 東京 石川昇
ほんの少し増えし手当や冬に入る 山梨市 浅川青磁
暖炉燃ゆ一角獣の壁飾 羽曳野市 細田義門
時雨るるや曳かれてのぼる達磨船 日高市 佐藤隆夫
世に残すものなく老いぬ鵙の贄 国分寺市 越前春生
冬靄を夜勤帰りのオートバイ 入間市 中村恵子
風花や廊下の奥の軽音部 彦根市 飯島白雪
ふとももに絆創膏や冬浅し 四日市市 伊藤衒叟
作業着の乾く勤労感謝の日 豊田市 内山幸子
煎餅の海苔の青さや冬きたる 川崎市 佐々木光政

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年12月19日

◎ 海底山脈頂上の島蝶渡る 豊橋市 河合清
【軽舟先生評】アサギマダラは秋に南方へ渡る。定着した季語ではないが雄渾な詠みぶりに感服した。

○ 初冬やあへてふびんな一人旅 東京 木村史子
【軽舟先生評】自分自身に同情しながら風景の中で癒されていく。そんな一人旅もあってよい。

初雪やあきらめに似て安堵感 秋田市 鈴木華奈子
マロニエの落葉踏み行く東西屋 福岡市 三浦啓作
ひと日をり病む掌に胡桃遊ばせて 太宰府市 上村慶次
路地裏や無月の顔とすれちがふ 尼崎市 吉川佳生
冬日和靴の先まで輝ける 可児市 金子嘉幸
番鴨日向に翼伸ばしをり 四條畷市 植松徳延
亀有の叔母はおでん屋して元気 東京 吉田かずや
冬晴や機上に読める業界紙 千葉市 新原藍
青き目の双子通りぬ冬すみれ 我孫子市 加藤裕子
柿熟れて島の朝刊船で来る 尼崎市 小石絹子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年12月13日

◎ 女の手に先づかさかさと冬が来る 神戸市 松田薫
【軽舟先生評】冬が来たと感じるきっかけはさまざま。水仕事の後にハンドクリームが欠かせなくなった。

○ 鈴虫にもらひし妻の寝息かな 鴻巣市 荻野道宏
【軽舟先生評】鈴虫の声を聴きながら妻は気持ちよく眠りに落ちた。その寝息が今度は作者の眠りを誘う。

母のごとく諭す占ひ冬隣 東京 木村史子
よく懐く都会の雀一茶の忌 川口市 平山繁寿
極月や妻に優しきことを言ふ 福岡市 後藤啓之
片雲もなし冬凪の田子の浦 伊豆の国市 山岸文明
人類の性よ木の実を拾ふのは 東京 種谷良二
鵯発つてこぼす赤い実白い糞 岡山市 三好泥子
島の背を越ゆる坂鳥花すすき 三浦市 安田勝洋
冬に入る妹山背山川豊か 奈良 岩田まさこ
無口なり親子でつつくおでん鍋 北九州市 吉松正彦
碁会所の日差し明るし冬はじめ 北九州市 胸形静男

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年12月5日

◎ 伊能図の山容やさし鳥渡る 東京 氣多恵子
【軽舟先生評】伊能忠敬の地図には山々が描かれている。渡り鳥の目に今の日本の山々はどう映っているか。

○ 七五三鳩けちらして転びけり 東京 神谷文子
【軽舟先生評】七五三の子どもが境内の鳩を得意気に蹴散らす。最後の「転びけり」が可愛らしい落ち。

連山の主峰に朝日鮭のぼる 千葉市 新原藍
節電に相親しみて日向ぼこ 春日市 林田久子
月白に石炭ヤード蒼く浮く 名古屋市 山内基成
貴顕来よ金木犀の散り敷けば 岡崎市 金田智行
妹は生涯パート一葉忌 豊橋市 河合清
産土の朔旦参り神の留守 鴨川市 冨川康雄
秋日濃し鳩の飛び立つ石畳 福岡市 礒邉孝子
竜の玉塵外にゐてまどろめり 神奈川 中島やさか
月末の支払済みて冬に入る 大阪市 富田千恵子
白き猫黒き猫門柱に座す 伊勢市 奥田豊

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年11月28日

◎ 秋陰や米一合の水加減 調布市 田中泰彦
【軽舟先生評】曇天の下で水に沈んだ米が白い。一合炊けば十分の暮らし。少量の米は水加減が難しい。

○ 枯蟷螂とつくに覚悟できてをり 仙台市 小林水明
【軽舟先生評】この覚悟は作者自身の覚悟。枯蟷螂に自分の姿を重ねたその胸中にあるのはどんな思いか。

風ひゆうひゆう秋のむら雲千切れ雲 つくば市 前岡博
雨月また佳し銀〔しろがね〕の月球儀 茅野市 植村一雄
飽食に血のにごりたり文化の日 小平市 土居ノ内寛子
赤松の古木の林夕月夜 大阪市 山田喜美
末枯れや日差しに寧き無人駅 稲沢市 杉山一三
老人が犬を遊ばす秋の浜 吹田市 三島明子
苦瓜の咲くアパートの老母かな 直方市 江本洋
日もすがら風の栖や芒原 うきは市 江藤哲男
母情より父情の淡し月祀る 和歌山市 溝口圭子
木洩れ陽の明るき秋の疎林かな 所沢市 川田信一

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年11月21日

◎ 赤い羽根銀座楽しくなくなりぬ 東京 喜納とし子
【軽舟先生評】赤い羽根をつけて銀座に来たが何か違う。銀座も変わったが作者自身も昔とは変わったのだ。

○ 朝露や一騎駆けぬけ馬場広し 東京 氣多恵子
【軽舟先生評】目の前を駆け抜けた一騎が馬場を忽ち遠ざかる。作者の視線の移動が読者を引き込む。

初鴨や滲みて乾く水彩画 横浜市 宮本素子
笹子鳴く山の教会椅子五十 大村市 森宏二
小鳥来る時計要らずの爺婆に 茅野市 植村一雄
秋風や遺跡の下にまた遺跡 鎌倉市 高橋暢
ドア開けて新車の匂ひ秋日和 さいたま市 大石誠
机にも椅子にもなりて林檎箱 諫早市 麻生勝行
秋天や駅の看板医者ばかり 福岡市 三浦啓作
芋よりも蒟蒻旨し芋煮会 兵庫 小林恕水
夜話や寒き背後に誰かゐる 所沢市 山本雪彦
秋澄みてコンビナートの夜景かな 東京 東賢三郎

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年11月15日

◎ 野分去り区民まつりの鼓笛隊 東京 鈴木利恵子
【軽舟先生評】区民まつりと言えばその様子は想像がつく。幸い台風も過ぎ去って鼓笛隊が繰り出した。

○ どぶろくの特区に遠野物語 久慈市 和城弘志
【軽舟先生評】どぶろくの特区認定と遠野物語。民俗学の聖地もまた観光振興と地域再生に懸命なのだ。

臥して読む宇治十帖や月鈴子 奈良市 荒木かず枝
独り旅雑木紅葉の道歩む 明石市 小田慶喜
秋風の墓にマッチをすりにけり 周南市 河村弘
歳晩の小路行くなり東西屋 大阪市 阪東英政
踏切を渡る黒猫竹の春 伊豆の国市 山岸文明
伸び切りし飛行機雲や蝗捕 国分寺市 藤田まさ子
銀杏を掃き寄せてゐる巫女二人 佐倉市 小池成功
酒蔵に沿うて静かや秋の川 門真市 田中たかし
車椅子手はどんぐりに届かずに 堺市 井崎雅大
日帰りのバス旅ひとり鱗雲 行橋市 野田文子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年11月7日

◎ 馬追に推敲の夜の更けにけり 嘉麻市 堺成美
【軽舟先生評】原稿用紙と向き合ううちに夜も更けた。スイーッチョという声にまた励まされる。

○ 公園は老人占拠草の花 東大阪市 三村まさる
【軽舟先生評】子供の姿はなく老人ばかりの公園。占拠と興じてみせたのは作者もその一人だからか。

やはらかな朝の瀬音や白芙蓉 名古屋市 大島知津
鉄柵に流るる霧や異人館 明石市 岩田英二
秋の虹淡くはかなし樹木葬 さいたま市 田中久真
小鳥来るからりからりと日和下駄 川越市 峰尾雅彦
山の日は暮るるも早し崩れ簗 北九州市 宮上博文
陽は落ちて月上るなり遊園地 鈴鹿市 岩口已年
ひつぢ田や老人犬に引かれ行き 真岡市 下和田真知子
あかあかと都庁の灯る無月かな 羽曳野市 細田義門
雲流れ月さやかなり汽笛聞く 神戸市 藤本博久
猫通る虚子のなき世の秋簾 八王子市 藤井昭明

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年10月31日

◎ 衣被正岡子規は月の人 東京 四倉ハジメ
【軽舟先生評】太陽の人ではなく月の人だ。衣被で一杯やりながら子規の人生に共感する。

○ 鉦叩少し打つては休みをり 埼玉 町田節子
【軽舟先生評】素直な描写が鉦叩らしい。もう終わりかと思うと忘れたころにまたチンチンと鳴き始める。

刈るほどもなき髪刈りて敬老日 福岡市 山北如春
縁側に鈴虫の籠ランドセル 千葉市 新原藍
手にとりて日のあたためし櫟の実 由利本荘市 松山蕗州
小鳥来る午後より開く喫茶店 大津市 若本輝子
学食にノート広ぐる秋の夜 藤沢市 青木敏行
こすもすや雲一つなき空の果 大阪市 永井経子
秋寒や鳩濡れそぼつ南口 東京 関口昭男
秋雨や沓脱石に下駄二足 東京 永井和子
桔梗やサラリーマンはネクタイに 富士宮市 渡邉春生
底紅や選挙ポスター色褪せて 香取市 香取一郎

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年10月24日

◎ 手をつなぐシネマ帰りの月の下 鯖江市 大森弘美
【軽舟先生評】映画がよかったからか、月がきれいだからか、気づいたらつないでいた手が意外なほど自然。

○ 夜の枯野から武士〔もののふ〕の血の匂ひ 宍粟市 宗平圭司
【軽舟先生評】そこは古戦場だったのだろうか。冴え冴えと冷えた空気に殺気を感じ取ったのだ。

銀座の夜意外と早し虫時雨 東京 種谷良二
一雨に秋めく路地の暮らしかな 豊田市 小澤光洋
男にも紅さし指や火恋し 山梨市 浅川青磁
窓ごとに物語ある良夜かな 市原市 稲澤雷峯
草雲雀銭湯の湯の熱きかな 彦根市 飯島白雪
自転車の夜光塗料や蚯蚓鳴く 亀山市 藤原さらさ
屋上に空を眺めて秋惜しむ 玉野市 松本真麻
弁当箱洗ふ男や天高し 古賀市 大野兼司
ほろ酔ひに帰る堤や虫時雨 高山市 直井照男
骨格の美しくある鳥渡る 尼崎市 吉川佳生

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年10月17日

◎ 流星や宿の迎への四駆来る 奈良市 荒木かず枝
【軽舟先生評】四輪駆動車で林道を揺られると秘湯のランプが見えてくる。白樺林の上を流星がよぎった。

○ 漕ぎ揃ふオールは翼水の秋 青梅市 中村かづを
【軽舟先生評】ボート競技のオールの動きは見ているだけでも美しい。選手の息が合って一つの翼をなす。

糠床に秋茄子男所帯なり 豊中市 清田檀
飼主逝き眠る老犬秋の午後 宍粟市 宗平圭司
晩学の古書店通ひ星涼し 別府市 渡辺小枝子
抱き上げて仔犬は温し秋来る 秋田市 西村靖孝
初潮の伊良湖水道蝶渡る 豊橋市 河合清
夜鍋する母はいつでも向う向き 東京 松岡正治
鮫よけのネットを外す晩夏かな 和歌山市 かじもと浩章
駆け込みし市バスに開く秋扇 横浜市 村上玲子
虫の音や介護ベッドも母も失せ 流山市 小林紀彦
炎天下若き僧侶の指白し 大阪市 小熊光子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年10月10日

◎ 吉良様を飾る三河の菊師かな 名古屋市 山内基成
【軽舟先生評】忠臣蔵では悪役ながら地元三河では名君と伝わる。郷土の誇りと胸を張る菊人形だ。

○ 往診に急ぐ夜道や虫時雨 吹田市 坂口銀海
【軽舟先生評】昔も今も往診を厭わない土地の人には心強い医師。鳴きしきる虫の声にも急かされるよう。

遠花火首手拭に手を拭ふ 小平市 土居ノ内寛子
卓袱台に新香ひと皿今朝の秋 奈良市 斎藤利明
見送りの後のホームや鰯雲 調布市 佐藤悠紀子
数珠玉や樹間流るる雲迅き 福岡市 三浦啓作
蝉の穴土竜の穴や宮掃除 洲本市 小川吉祥子
転勤の話の出たる休暇明け 東京 野上卓
武蔵野の雑木林や曼珠沙華 東京 永島忠
工場の午報に急ぐ日傘かな 福岡 村岡昇藏
最北の地に鉄路果つ鰯雲 横浜市 石川元子
好きな時好きなだけ寝て夏果てる 葛城市 八木誠

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年10月3日

◎ 天皇と同じ学年終戦日 京都市 小川舟治
【軽舟先生評】学年が同じということでずっと身近な存在と感じていた。生前退位のご意向が胸に沁みる。

○ 新涼や風に吹かるる草の色 東京 松嶋光秋
【軽舟先生評】まことに淡い内容ではあるけれど、秋の訪れはこのように感じとられるものなのだと思う。

木歩忌の墨水渡り手を合はす 東京 吉嶋大二
駅前のシャッター通り月照らす 名取市 里村直
掃除して無住寺閉ざす秋彼岸 堺市 野口康子
新涼や産褥に母子みづみづし 甲府市 中村彰
つくつくしコンクリートの街に鳴く 可児市 金子嘉幸
犬の仔が乳奪ひ合ふ今年藁 名古屋市 可知豊親
焼肉の後の冷麺地虫鳴く 仙台市 小林水明
新涼の少女に似合ふワンピース 秋田市 西村靖孝
踊り子と踊り子の間や月明かり 京都市 若狭愛
星祭業平道の山険し 八尾市 岡山茂樹

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年9月26日

◎ 甘藷畑雨に潤ひ朝の弥撒 大村市 森宏二
【軽舟先生評】痩せた土地と信仰を代々守ってきた人々の生活を思う。「雨に潤ひ」が優しい眼差し。

○ 除草して売物件となりにけり 大阪 池田壽夫
【軽舟先生評】空き家の庭が急にさっぱりして売家の看板が立つ。晴れがましくて、そして寂しい。

闊歩せり片陰長き丸の内 東京 喜納とし子
湯上りの体重計や涼新た 秋田市 鈴木華奈子
新生姜洗うて紅のほのかなり 日高市 落合清子
目ぐすりの一すぢ頬に夜の秋 芦屋市 井門さつき
白波を追ふ白波や秋の色 銚子市 久保正司
雲照らしながらに響く遠花火 東大阪市 北埜裕巳
老いてなほ飯の甘さよ萩の花 川口市 狩野睦子
昧爽の風の軽しや一葉落つ 川崎市 立石明子
寄する波受けて大岩揺ぎなし 朝来市 福本千歳
橋立の海に浮かびて望の月 宇治市 坂下徹

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年9月19日

◎ 工場に小さき事務所秋簾 名古屋市 鈴木幸絵
【軽舟先生評】秋簾がいかにも町工場らしい。西日の当たる事務所で効きの悪い冷房機が唸っている。

○ 新涼や爪切り仕舞ふ小抽出 大阪市 佐竹三佳
【軽舟先生評】あるべき場所にあるべき物がある。使い勝手よく片付いた生活空間の心地よさ。

連れられて殯の森へ露の玉 東京 木村史子
独り身の息子も初老遠花火 一宮市 渡辺邦晴
二三日まとめて日記夜の秋 東京 野上卓
豪農の黒き畳や軒風鈴 長岡市 柳村光寛
野仏に供華して去りぬ白日傘 名古屋市 浅井清比古
雪渓の明くるともなく白みたり 東京 石川黎
蚊帳吊草放課後の道川に沿ふ 郡山市 佐藤祥子
折り皺に畳む風呂敷秋立ちぬ 平塚市 藤森弘上
路地の奥門灯一つ虫の声 茨木市 桐田昶子
手の甲の静脈太し草いきれ 千葉市 鈴木千ひろ

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年9月13日

◎ 病院の屋上の恋花火果つ 釜石市 佐藤裕子
【軽舟先生評】入院患者同士の恋だろうか。今夜は町の花火大会。特殊なシチュエーションがせつない。

○ 氷雨降る阿蘇馬耳を振るばかり 福岡市 後藤啓之
【軽舟先生評】雷雲がにわかに押し寄せ草千里に雹が降る。大景の中で放牧される馬の静けさが印象的。

タクシーを待たせたままの墓参かな 厚木市 石井修
ホチキスをがつんと一打夏終る 熊本市 寺崎久美子
蛇口みな上を向きたる原爆忌 川越市 峰尾雅彦
かなかなや湯上りに切る足の爪 高萩市 小林紀彦
木刀の素振り百回今朝の秋 奈良市 上田秋霜
参道に日は真面なり氷旗 東京 木内百合子
水着の子水着の母の影の中 大村市 森宏二
炎天の駅のホームを風がぬけ 東京 黒木順
鴉の子空におぼれてゐるごとし 鶴ケ島市 伊勢陽子
青柿や悪友つひに会はぬまま 堺市 井崎雅大

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年9月5日

◎ 母の待つ離島航路や盆の月 津市 田山はじめ
【軽舟先生評】離島への帰省。季語がよい。帰ったら母と門火を焚いて亡き父を迎えることだろう。

○ 月見草みづうみ遠く見てひとり 龍ケ崎市 清水正浩
【軽舟先生評】日が暮れて湖面がしろじろと見える。ひとりきりでいることの心やすさとさびしさ。

日盛や江の島巡る郵便夫 横浜市 宮本素子
砂利軋む大社〔おおやしろ〕なり終戦忌 神奈川 新井たか志
オリーブの沈むグラスや窓花火 水戸市 安方墨子
立秋や団地は古き坂登る 鈴鹿市 岩口已年
秋彼岸雨具小さく畳みけり 町田市 友野瞳
桃甘ししみじみ黙す妻と吾 仙台市 野々村務
この坂を登らば我が家油照 今治市 越智ミツヱ
動くとも見えぬ真夏の観覧車 倉敷市 安永雄
登り来て古城本丸花は葉に 伊賀市 菅山勇二
見上ぐればみんみんの声静かなり 豊中市 荒井遥

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年8月29日

◎ 緑陰や地べたに憩ふ除染工 福島市 清野幸男
【軽舟先生評】仕事にたっぷり汗を流したあと木陰で休憩する。健やかな情景に下五の暗転が衝撃的。

○ 剃刀の切れ味悪き我鬼忌かな 尼崎市 松井博介
【軽舟先生評】芥川龍之介の死は七月二十四日。この句の剃刀は怜悧な頭脳を覆った不安を連想させる。

工場の裏に銭湯梅雨の月 名古屋市 鈴木幸絵
玫瑰やしきなみ遠きひびきあり 札幌市 村上紀夫
新涼や母の形見の筆二本 神戸市 三木福一
貝風鈴沖に波立つ日なりけり 吹田市 末岡たかし
朝凪や始業ベル鳴る町工場 福井市 堤ひろお
教会の鐘の植田へひろがれり 宗像市 梯寛
嵐電の大きく揺れて秋涼し 神戸市 田代真一
睡蓮の花閉づる頃ははと逢ふ 泉佐野市 中瀬幸子
流灯や彼方に父母の声を聴く 福岡市 内匠良子
寝不足の窓より逃す朝の蜘蛛 船橋市 岡崎由美子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年8月22日

◎ 盆明けや北洋目差す漁船群 銚子市 久保正司
【軽舟先生評】次に帰って来るのは正月だろうか。遠洋漁業の町だからこそ盆の明けるのが名残惜しい。

○ 留守番のひとりの昼餉冷奴 香芝市 矢野達生
【軽舟先生評】「ひ」の音の繰り返しが軽快で楽しい。留守番もまたそれなりに楽しいに違いない。

青梅や湯上りの児の蒙古斑 京都市 小川舟治
三伏や京の土産の黒七味 東京 尾上恵子
夕立やうちとけてゆく心地よさ 平塚市 藤森弘上
西日濃し古本市の店仕舞 彦根市 飯島白雪
朝涼のコンビニ前の紫煙かな 東京 神谷文子
海の日や空のガレージ古タイヤ 調布市 田中泰彦
冷麦や贔屓の力士休場す 島根 百合本暁子
梅雨寒やひねもす倦まず歎異抄 甲府市 中村彰
鬼百合の墓地を抜ければ日向灘 宮崎市 早川寶
蜜豆やルソン島より父帰る 真岡市 下和田真知子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年8月15日

◎ 記念日の夫婦の夕餉冷奴 芦屋市 水越久哉
【軽舟先生評】結婚記念日だろうか。いろいろ考えてみたけれど、結局家でいつもの晩御飯がいちばん。

○ 帰省子に突つ掛けでゆく水辺あり 東京 望月清彦
【軽舟先生評】そこに行くと、ああ帰ってきたと思える水辺なのだ。都会に出ても心から離れなかった風景。

打水に暖簾小さき寿司屋かな 東京 喜納とし子
熱帯魚銀ぶらの歩を休めたる 松本市 太田明美
白壁に葉柳ゆるる逢瀬かな 芦屋市 瀬々英雄
盆支度整ひし部屋風とほす 銚子市 久保正司
割箸の檜の匂ふあらひかな 大牟田市 山口正男
なほ北へ行く貨物船夏の月 水戸市 安方墨子
胡瓜もみモロッコ産の蛸入れて 和歌山市 かじもと浩章
青田まで支所の午報の届きけり 伊丹市 山地美智子
病葉や未来が未来だつた頃 宇都宮市 大渕久幸
片虹や甘えてみたし思ひきり 松戸市 原田由樹

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年8月8日

◎ 馬鈴薯の花航空路直下なり 市原市 稲澤雷峯
【軽舟先生評】馬鈴薯畑に立つ作者のはるか上空を飛行機が過る。広い空と広い大地が見えてくる。

○ 梅雨の傘巻いて通勤電車かな 神戸市 松田薫
【軽舟先生評】混雑した電車で互いの傘に服が濡れるのは嫌なもの。「巻いて」に作者の生き方を感じる。

八百政の裸電球さみだるる 福島市 清野幸男
五月雨や駐輪場の三輪車 横浜市 村上玲子
レクラムを神田に買へり鴎外忌 名古屋市 山内基成
小雨のち晴れわたりたる海開き 神奈川 中島やさか
雨になる風の匂ひや行々子 三条市 宮島勝
船旅のキャンセル待ちや熱帯夜 武蔵野市 三井一夫
病は得るものほうたるは放つもの 京都市 若狭愛
あめんぼの押へつけたる水面かな 大牟田市 本田守親
水打ちて遠来の客迎へをり 岡山市 久山順子
白靴や出発ロビー人の波 北上市 三宅清房

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年8月1日

◎ 呼鈴に子ども出てきしカンナかな 和歌山市 西山純子
【軽舟先生評】「お母さんは?」と聞くと、子どもは走って引っ込む。呼鈴をめぐる懐かしい風景。

○ 百年後につぽんありや日向水 羽曳野市 北山正人
【軽舟先生評】常識的なフレーズも取り合わせる季語一つで詩になる。日向水に作者の思いが照り映える。

母も来て捜すボールや夏の雨 鯖江市 大森弘美
アロワナは死に屑金魚残りけり 松阪市 松江山水子
野球部の部員七人雲の峰 川越市 峰尾雅彦
決勝の太陽浮かぶプールかな 北本市 萩原行博
植ゑし田に故山の星の瑞々し 札幌市 塩見俊一
あぢさゐや明日の色はケセラセラ 秋田市 鈴木華奈子
肩ふれて妻の日傘の中に入る 入間市 大矢勲
緑蔭にマーク・トウェーン読書会 東京 山口照男
夕立や一人で入る喫茶店 門真市 武田利子
人見知りする子や天瓜粉匂ふ 米子市 永田富基子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年7月25日

◎ 梅漬けて今年半分過ぎにけり 東京 橘田麻伊
【軽舟先生評】年とともに月日の過ぎるのが早くなった。今年ももう半分、といつもこの時期に思う。

○ 今年また風に吹かれに帰省かな 稲沢市 杉山一三
【軽舟先生評】帰省したからといって特別にすることもないが、それでも生き返った心地になるのだ。

炎昼や野良犬あばら浮き上がり 彦根市 飯島白雪
青柿や爪立ち干せるバスタオル 逗子市 山崎南風
夕闇に夏炉の灰の匂ひかな 太宰府市 上村慶次
白波の沖ゆく船や月涼し 奈良 高尾山昭
五月雨や船路の絶えし遊女町 下関市 石田健
稲の花葬列山へ向かひけり 市原市 稲澤雷峯
火取虫秘仏の厨子のほのあかり 奈良 栗田秀子
大道芸トランク一つ木下闇 札幌市 江田三峰
峡住みになれたる夜や青葉木菟 島根 高橋多津子
梅雨空やラジオ載せたる将棋盤 土浦市 清川永作

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年7月18日

◎ カツ丼の出前とどくや田草取 亀山市 藤原さらさ
【軽舟先生評】田んぼの傍らに止めた軽トラックまで出前が届く。みんな顔見知りの親しい村の暮らし。

○ 夏帽子訃報に天を仰ぐのみ 芦屋市 瀬々英雄
【軽舟先生評】夏帽子の明るい印象が訃報の衝撃を際立たせる。炎天を仰ぐ作者の姿が見えてくる。

水口へ投げたる早苗風を切る 岡崎市 矢野久造
しろがねに光る来し方なめくぢり 岡山市 三好泥子
夕顔や潮入川の釣舟屋 東京 氣多恵子
便箋の白さ眩しく夏に入る 愛西市 坂元二男
夏立つや父の嗽のアエイオウ 国分寺市 藤田まさ子
擦れ違ふ列車待ちをり栗の花 福岡市 三浦啓作
日の暮の空の青さやカーニバル 別府市 渡辺小枝子
畑小屋の裸電球火蛾舞へり 明石市 岩田英二
青梅を太らせて過ぐ朝の雨 常陸大宮市 笹沼實
紫陽花や訪なふ人もなき墓に ひたちなか市 衛藤稚春

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年7月11日

◎ パソコンもスマホも持たず電波の日 福岡市 林〓
【軽舟先生評】電波の日は六月一日。その恩恵から遠く暮らす生き方を自ら肯(うけが)っているようである。

○ 時の日や時報に合す掛時計 鴨川市 冨川康雄
【軽舟先生評】時の記念日は六月十日。すぐに遅れる古い掛時計を踏台に乗って直す。これもまた生き方。

初夏の潮の香にあり理髪店 鎌倉市 松崎靖弘
突堤に足ぶらぶらと夜涼の子 北九州市 宮上博文
こめかみに新香ひびくや朝曇 秋田市 鈴木華奈子
うら若き母の俤桐の花 町田市 枝澤聖文
雨の日の電灯昏し柚子の花 大阪市 佐竹三佳
昭和の日けふもコロッケ飽きもせず 松山市 楠本武
冷酒や同じ苗字の氏子たち 横浜市 宮本素子
山法師いよいよ白し雨の中 大分市 首藤勝二
みどり児の黒き瞳や天花粉 門真市 武田利子
父の日ややつと決まりしプレゼント 鶴ケ島市 伊勢陽子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年7月4日

◎ 辻に待つ夫へ日傘高うせり 大津市 若本輝子
【軽舟先生評】差していた日傘を思わず高く掲げて合図するのは人ごみに夫を見つけたうれしさから。

○ こんこんと最後の水場青胡桃 国分寺市 伊澤敬介
【軽舟先生評】ここから先の登山道に水場はない。水筒にたっぷり汲んで前途に思いを馳せる。

少年の白き目覚めや栗の花 川越市 益子さとし
海凪ぎてひとり跣足の凱歌かな 東京 木村史子
てのひらに享くるしづけさ緑さす 四日市市 伊藤衒叟
恃み合ふ老の夫婦や胡瓜もみ 大田市 森井晃一
麦秋や白き卓布にクロワッサン 福岡市 礒邉孝子
家々に夕餉の明かり遠蛙 名古屋市 大島知津
読みかけの本に団扇を挟みけり 田辺市 川口修
身は半ば炎となりぬ恋蛍 延岡市 橋本京子
伊吹山〔いぶき〕よりパラグライダー麦の秋 上尾市 中久保まり子
目高浮く雨いつぱいの古火鉢 岡山市 今井操庵

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年6月27日

◎ あぢさゐ医院治りますかと妻が訊く 一宮市 渡辺邦晴
【軽舟先生評】あじさいが季語だが医院の名のようでもある。隣にいた妻が急に身を乗り出して医者に問う。

○ 万緑や古りゆくものに開港史 大村市 森宏二
【軽舟先生評】開国と文明開化の時代は遥かな昔。変わらないのは港町を抱く山の緑だ。

まつくらな橋となりけり青葉木菟 国分寺市 越前春生
河口より海鳥の声みなみかぜ 東京 望月清彦
アカシヤの花雨に散る夕間暮れ 上野原市 小俣一雄
老農の厚き手の平朴の花 つくば市 前岡博
青桐の影さす母の机かな 東京 今泉忠芳
麦刈りて夕風甘くなりにけり 前橋市 矢端桃園
落書きのガードをくぐる燕かな 神奈川 大久保武
湯治場の山滴るや米洗ふ 須賀川市 関根邦洋
シャム猫に白壁の路地夕永し 東大阪市 伊藤雅子
草笛や雲より遅く時流る 東京 磯野絵璃奈

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年6月20日

◎ 花の雨手鏡ほどのにはたづみ 水戸市 安方墨子
【軽舟先生評】小さな水たまり。手鏡ほどと見立てたのが花の雨に似合って艶やかな風情がある。

○ みづうみに深き月光ほととぎす 奈良市 荒木かず枝
【軽舟先生評】山中の澄んだ湖水に月光が深く差し入る。時鳥が鳴き渡ってこの世ならざる雰囲気が漂う。

あやめ挿す祇園の燐寸貰ひけり 津市 田山はじめ
見送りの後の港や夏の雲 松本市 太田明美
豆飯や昔も今も人恋し 松阪市 奥俊
路地裏に兵の墓見ゆ白桜忌 四條畷市 植松徳延
緑蔭にバンドの仲間集ひけり 福岡市 林〓
新樹光カーテンコール鳴りやまず 大阪市 安東明美
青嵐少女は背伸びして語る 長崎市 田中正和
誘蛾灯ともり鶏舎の灯もともり 深谷市 酒井清次
鰺釣りに賑わっている波止場かな 田辺市 川口修
走り梅雨母と嘆いて探しもの 神戸市 福原雅子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年6月14日

◎ 遠雷やオイルライター匂ひ立つ 鈴鹿市 岩口已年
【軽舟先生評】百円ライターでは味気ないのだ。オイルライターへのこだわりに遠雷の緊張感が似合う。

○ 刷りたての名刺ひと箱風光る 北本市 萩原行博
【軽舟先生評】春は人事異動の季節だ。引継ぎの挨拶回りを皮切りに新しい職場の毎日が始まる。

作業着の白き二の腕今朝の夏 宇部市 中村有爲子
パティシエのひつつめ髪や夏に入る 横浜市 宮本素子
パナマ帽海の広さに風の吹く 大分市 高柳和弘
水中花弾かぬピアノの上にあり 池田市 黒木淳子
それぞれに仕事持つ身や風炉手前 さいたま市 根岸青子
コンビニで新聞買ふや明易し 東京 野上卓
大空に雲遊ばせて麦の秋 神戸市 田代真一
鎌倉駅見ゆる茶房や春惜しむ 東京 喜納とし子
新緑やゴム長に押す猫車 日野市 坂巻恭子
友達と机に馴れて新入生 行橋市 小森慶子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年6月6日

◎ 敷藁にまだ草色の苺かな 名古屋市 大島知津
【軽舟先生評】小さく草色でもちゃんといとけない苺の形をしている。敷藁の褥〔しとね〕で大事に育てられている。

○ 春落葉子ら来ずなりて砂場老ゆ 東京 氣多恵子
【軽舟先生評】住民がすっかり高齢化した団地の砂場といったところか。砂場もまた「老ゆ」なのだ。

夏めくや有田の皿の青海波 静岡市 生江八重子
春灯下不条理劇の椅子ひとつ 東京 尾上恵子
藤咲けり伊達と相馬の国境 福島市 清野幸男
崖下の海人の集落幟立つ 和歌山市 西山純子
井の頭公園午後の花筏 苫小牧市 吉田京子
窯と窯つなぐ坂道つばくらめ 名古屋市 浅井清比古
山笑ふ上着一枚腰に巻き 春日市 林田久子
出張に泊まるわが家や豆の飯 神戸市 松田薫
銀紙のチョコとろけたる春深し 大牟田市 山口正男
夏立つや自転車と乗る渡し船 吹田市 三島明子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年5月30日

◎ 仏壇の饅頭さげて春のくれ 東京 神谷文子
【軽舟先生評】仏壇の饅頭を卓袱台にさげて一人で味わう。亡き人が好み、いつも一緒に食べた饅頭か。

○ 澎湃と天仰ぎたる芽吹きかな 青森市 小山内豊彦
【軽舟先生評】澎湃とは水がみなぎるように勢いの盛んなこと。春を待ちかねていた北国の芽吹きを思う。

紙飛行機海をこえけり修司の忌 東京 四倉ハジメ
女子大の裏に銭湯巣立鳥 日高市 佐藤隆夫
人形の眠らぬ瞳夕薄暑 龍ケ崎市 清水正浩
春風やワゴンセールの洋雑誌 横浜市 村上玲子
朝練のローラー掛けや花水木 さいたま市 大石誠
永き日や会社帰りに寄る本屋 東京 種谷良二
うろくづの遡る翳春の川 福岡市 山北如春
夕空に春月淡し大江山 京都 千賀壱郎
菜の花や島の女の泣き上戸 古賀市 大野兼司
菜の花や小学校の昼餉時 東京 野藤哲子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年5月23日

◎ 独活掘るや蝮息づく雨後の山 松阪市 松江山水子
【軽舟先生評】自然の懐にとびこんで自然の恵みをいただく暮らし。危険はあっても楽しそうだ。

○ 春の星数へて妻と旅にあり 愛西市 坂元二男
【軽舟先生評】あ、一番星。ほら、あそこにも。一日の旅程を終えた夕暮れ時だと想像する。

薫風や二間続きに宗和膳 横浜市 宮本素子
少年は馬上少女は花の下 津市 田山はじめ
捨金魚育つ小溝や菖蒲の芽 宇部市 谷藤弘子
山近き海近き町風光る 武蔵野市 渡辺一甫
単線の女車掌と春の海 鎌倉市 松崎靖弘
角落ちし鹿の剣突食らひけり 小平市 土居ノ内寛子
バケット車掛けて覗くや鴉の巣 名古屋市 山内基成
通勤の満員電車樟若葉 名古屋市 鈴木幸絵
特急の過ぎたる後の日永かな 周南市 河村弘
春宵や片鎌槍の螺鈿の柄 四日市市 伊藤衒叟

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年5月16日

◎ パンジーや褒めれば褒めるほど咲いて 米子市 永田富基子
【軽舟先生評】花壇いっぱいに咲くパンジーは確かにこんな感じだ。ご褒美の如雨露の水がうれしそう。

○ アルパカの睫は長し花ぐもり 宇都宮市 大渕久幸
【軽舟先生評】アルパカは遥かインカ帝国の昔から飼われてきた。異国の空をどんな思いで眺めているか。

濃く淡く綾なす海や白子干 姫路市 板谷繁
半世紀経てぼた山の笑ひをり 福岡市 三浦啓作
つばくらやバス停前の町工場 東京 永島忠
屋根職人梯子下り来る日永かな 千葉市 新原藍
山宿に湯桶ひびける朝桜 水戸市 安方墨子
風光る遮るものの何もなく 秋田市 鈴木華奈子
路叩きゆく白杖の夕永し 調布市 田中泰彦
街道の松の日和や狂ひ凧 山口市 池ノ岡火帆
残業のビニール傘に落花あり 東京 吉嶋大二
囀や大樹の抱く日の光 大津市 深田弥栄子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年5月9日

◎ 老いらくの恋やいきなり幹に花 福岡市 三浦啓作
【軽舟先生評】桜の古木の幹にいきなり花が咲くのはしばしば見る。まるでわが老いらくの恋のごとく。

○ ネットカフェ帰る巣のない夜の鳩 彦根市 飯島白雪
【軽舟先生評】煌々と街灯の照る都会の夜をうろつく鳩。「おまえもか…」と呟く作者がそこにいる。

掃き寄せて匂へり樟の春落葉 名古屋市 大島知津
算盤に電池切れ無し昭和の日 香取市 嶋田武夫
赴任地の空気の甘し山笑ふ 宮崎市 十河三和子
傘雨忌や午後から点る飲み屋の灯 東京 吉田かずや
巣燕や長所から書く通信簿 東京 氣多恵子
牛乳と卵買ふ道夕桜 東京 野上卓
花の雨石の聖衣をひた濡らす 大村市 森宏二
海猫渡る仮設店舗の屋根低く 福島市 清野幸男
担任は新任教師ミモザ咲く つくば市 矢野しげ子
バス停の小さき椅子や桃の花 東京 松岡正治

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年5月2日

◎ いきいきと残る靴跡春の土 青森市 小山内豊彦
【軽舟先生評】雪が消え、やわらかな土を踏むうれしさ。靴跡もいきいきと春の訪れを告げる。

○ 赴任地の水の冷たし雪柳 北本市 萩原行博
【軽舟先生評】蛇口から出る水の冷たさに気が引き締まる。新しい生活への期待が雪柳の花に表れている。

風船売まぼろしの町とほりけり 東京 四倉ハジメ
天壌の風生ぐさし夕蛙 市原市 稲澤雷峯
大津絵の鬼に涙や忘れ霜 太宰府市 上村慶次
赤飯の湯気立ちのぼる朝桜 日高市 落合清子
少年の白き腕や半仙戯 静岡 吉岡千春
蒲公英やにはかに降りて土匂ふ 秋田市 西村靖孝
海峡を行き交ふ舟や春の海 下関市 小島理恵子
夕闇に蛙合戦五十鈴川 神戸市 三木福一
中之島母と一周春日傘 大阪市 香林綾子
こきこきと首の骨鳴る日永かな 東京 倉下鏡

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年4月25日

◎ 曲水の烏帽子の父の髪白し 神戸市 田代真一
【軽舟先生評】ゆったりと時間の流れる古式ゆかしい行事のさなか、ふと父の老いが胸に迫った。

○ 初虹や何度聞いてもいい話 由利本荘市 松山蕗州
【軽舟先生評】近所で聞いたか、ニュースで見たか、とげとげしい世相を忘れさせるいい話だったのだ。

春雨や濡れて荷を押す配達子 東京 鈴木利恵子
灯台の沖は黒潮鰆東風 田辺市 川口修
蝌蚪の田の雨にしづもるひと日かな 千葉市 笹沼郁夫
春宵や居間の決〔さく〕りの滑り佳き 福岡市 三浦啓作
ポスターに恋する少年地虫出づ 清瀬市 峠谷清広
蕗の薹返しそびれし本のあり 愛西市 坂元二男
菜の花や外国船のゆつくりと 鳥栖市 重松石削
囀りや研究室に届くピザ 調布市 佐藤悠紀子
路地裏のジャングルジムや春の月 東京 関口昭男
冴え返る隣家の庭の水の音 東京 黒木順

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年4月18日

◎ 母は子に子は風船に引かれ野へ みよし市 稲垣長
【軽舟先生評】風船と子と母が一つながりに野へ駆け出す。絵本のような世界に読者も引き込まれそう。

○ 盃の紅ぬぐふゆび遠山火 川越市 益子さとし
【軽舟先生評】遠く燃える山火は現実のものなのか作者の心象なのか。女の何気ないしぐさが匂い立つ。

暮れきつてよりの潮騒貝雛 吹田市 末岡たかし
花時や軽く過ぎたる誕生日 神奈川 新井たか志
閉校の校歌流るる桜かな 我孫子市 加藤裕子
分校に黒板ひとつ山桜 北本市 萩原行博
しんしんと仏間の畳冴返る 周南市 木村しづを
川幅に潮上げてくる蘆の角 市原市 稲澤雷峯
のどけしや古き酒場の昼の酒 尼崎市 松井博介
玄関に犬の留守番日脚伸ぶ 水戸市 安方墨子
辛夷咲く小径配達楽しかり 直方市 江本洋
ケーキ屋のケース覗く子蝶の昼 熊本市 江藤明美

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年4月12日

◎ 田螺鳴くここにまだ人がをります 東京 吉竹純
【軽舟先生評】僻村の限界集落か。あるいは原発事故の周辺か。田螺に託された言葉が切々と響く。

○ 教へ子の庭より来たりクロッカス 可児市 金子嘉幸
【軽舟先生評】教師と教え子の親しい関係が目に浮かぶ。春先の庭がまるで教え子の未来のように明るい。

間夜の待ちきれなくて雉になる 日高市 金澤高栄
梅二月金のかからぬもの食ぶる 福岡市 山北如春
囀や俎をふく麻布巾 東京 喜納とし子
山沿ひは雪の予報や花菜漬 松本市 太田明美
鳥雲に使ひ古りたる羽箒 平塚市 藤森弘上
かぐはしき加賀の棒茶や古雛 小田原市 守屋まち
流氷の海へ岬のせり出しぬ 弥富市 富田範保
春疾風コルシカへ帆を上げにけり 和泉市 白井恭郎
半島の夜明けは近し若布刈舟 名取市 里村直
榾に酒こぼして終る稲荷講 青梅市 中村かづを

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年4月4日

◎ 差潮を上る短艇いぬふぐり 福島市 清野幸男
【軽舟先生評】河口を渡る風はまだ頬を刺すようだが、作者の足元にはいぬふぐりが春を告げる。

○ 旧正や点心に湯気立ち上る 明石市 久保勲
【軽舟先生評】中国では春節と称して旧正月を賑やかに祝う。この句の向こうに爆竹の音が聞こえるよう。

針魚群れ出港を待つ定期船 大分市 首藤勝二
春風や島から島の通学路 北本市 萩原行博
鳥帰る遠くの島がよく見えて 熊本市 寺崎久美子
むき出しの鉄骨赤き余寒かな 新居浜市 正岡六衛
店子老い大家老いたり青木の実 横浜市 宮本素子
自治会の集金終へぬ春の星 横浜市 村上玲子
啓蟄や車出はらふ駐車場 川越市 峰尾雅彦
青き踏む河童伝説残る村 つくば市 村越陽一
米をとぐ独居の夕べ水ぬるむ 鎌倉市 渡辺マキ
春ひなたげんのうの音雀躍す 狛江市 三上栄次

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年3月28日

◎ 街の春わけても婦人靴の店 明石市 岩田英二
【軽舟先生評】商店街の店の様子が春めいてきた。なかでも婦人靴の店の明るさに作者の心は動いたらしい。

○ 仕事場に匂ふ木屑や立雛 奈良市 梅本幸子
【軽舟先生評】棚の上に一対の立雛。散らかった木屑のひんやりした匂いとの取り合わせがよい。

春風や僧に貰ひし子の名前 別府市 渡辺小枝子
神楽坂小店ばかりの春浅し 東京 松嶋光秋
襖絵の山紫水明春炬燵 奈良 中川潤二
若き日の満洲恋し黄砂降る 川口市 狩野睦子
食卓に旅のカタログ春を待つ 平塚市 森本富美子
子猫出てくるよ箪笥のすきまから 池田市 黒木淳子
デージーや色鉛筆の十二色 神戸市 田代真一
白梅や雨の中へと郵便夫 鹿児島市 大島正晴
春隣歯科医の次の予約して 津市 田中亜紀子
靴あふれおり古寺の雛飾り 小林市 市來義輝

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年3月21日

◎ 鷹峯月の切先冴返る 吹田市 末岡たかし
【軽舟先生評】本阿弥光悦が工房を構えた洛北の鷹峯か。鋭い筆致が光悦の美意識にも通じるようだ。

○ ほほづゑつく肘に毛玉や二月尽 東京 木村史子
【軽舟先生評】毛玉まで言ったのがよい。頬杖ばかりついていた冬が終わり、春の光が作者に呼びかける。

春浅しコピー配りて早春賦 秋田市 鈴木華奈子
大空へのぼる烟や放哉忌 東京 東賢三郎
バスのりばタクシーのりば名残雪 一宮市 渡辺邦晴
遅き日や四条大橋混み合へる 大阪 池田壽夫
初蝶やFM局の電波塔 鈴鹿市 岩口已年
教室に活けてありけり桃の花 尼崎市 松井博介
春夕焼風に煽られバスを待つ 我孫子市 加藤裕子
節分の門灯あはく点りけり 福岡市 礒邉孝子
アルバムに探る来し方夕永し 茅野市 植村一雄
寒明けの鳩の声聞く朝かな 呉市 岩崎秀俊

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年3月14日

◎ さえざえと襟足さむき桜貝 津市 田山はじめ
【軽舟先生評】襟足に感じる春の寒さと汀に散らばる桜貝。その取り合わせが桜貝の色を引き立てる。

○ 雛壇の明かりのとどく畳かな 市原市 稲澤雷峯
【軽舟先生評】雛壇から少し目を逸らして雛祭の雰囲気を伝える。見慣れた畳が艶めいて見える。

朝東風や波音響く始発駅 藤沢市 田中修
手のひらにさくら貝あり失意あり豊橋市 河合清
吾も石もやさしくなりぬ春の雨 日高市 落合清子
駅裏の官舎目刺を焼く匂ひ 奈良市 上田秋霜
トーストにシナモン振つて春間近 彦根市 飯島白雪
切り離す暦の音も春隣 平塚市 藤森弘上
春しぐれ税務署までの道とほし さいたま市 田中久真
いとほしや稚児の洟〔すすばな〕春を待つ 高槻市 石田義男
梅咲きし庭先に出て歯をみがく 深谷市 酒井清次
草萌のはじまる風の匂かな 武蔵野市 渡辺一甫

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年3月7日

◎ 新駅に広場東西春隣 二本松市 野里安のり
【軽舟先生評】東口にも西口にも駅前広場ができた。まだ店もまばらだが町がどう変わっていくのか楽しみ。

○ 春近しL二個ぶんの目玉焼 東京 木村史子
【軽舟先生評】朝食の目玉焼を作る。卵がLサイズでしかも二個というところに春を迎える気分がある。

雪の夜や吸取紙に残る文字 宗像市 梯寛
春立つやハノイの路上理髪店 横浜市 村上玲子
ふるみちの郵便局の雛かな 和歌山市 西山純子
塾の灯の残る寒夜の二階かな 流山市 小林紀彦
黒板に日直ふたり春隣 日高市 金澤高栄
寒梅や日向に人の集まり来 奈良市 渡部弘道
畦を焼く煙の中に父母の墓 明石市 小田慶喜
冬芽立つ女子大までの並木道 名古屋市 大島知津
窯出しの大鉢小鉢風光る 大津市 山本浩
蕗味噌や生涯抜けぬ国なまり 東京 猪股みず

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年2月29日

◎ 寒暁やシャッター上げる始発駅 横浜市 宮本素子
【軽舟先生評】「シャッター上げる」に臨場感がある。まだ真っ暗な空を見上げる作者の吐く息が白い。

○ 張り紙にギター教室梅早し 宇都宮市 大渕久幸
【軽舟先生評】粗末な張り紙ながら思わず身を乗り出した。春先は人の心を明るく前向きにするのだ。

遠ざかる子供の声や雪兎 松本市 太田明美
最高裁巌のごとく冬景色 東京 野上卓
菓子盆に菓子とりどりや冬座敷 東京 氣多恵子
冬晴や映画のロケの無人駅 鎌倉市 松崎靖弘
紅梅や盲導犬の去りし庭 名古屋市 鈴木幸絵
海見えて母病床に春を待つ 龍ケ崎市 白取せち
冴ゆる夜の空港にまた着陸機 福岡市 林〓
風光る運動場の時計台 東京 永井和子
粉雪や道頓堀の二人連れ 奈良 栗田秀子
寒波来る老いの独居は食べて寝て 堺市 野口康子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年2月22日

◎ 歯ブラシをくわえたとたん風邪心地 東京 野上卓
【軽舟先生評】ゾクッと悪寒に気づくのはなるほどこんなとき。日常生活の実感をさらりとすくい上げた。

○ スクラムに己突刺すラガーマン 名古屋市 山内基成
【軽舟先生評】スクラムを組むときの一人一人の動きは確かに「突刺す」だ。力強い写生になった。

兎罠示すリボンや〓の森 横浜市 村上玲子
鯛焼を食うて幕間の老いふたり 那須塩原市 谷口弘
犬が見えやがて人見え落葉径 町田市 枝澤聖文
白砂踏む音と松籟冬うらら 今治市 井門さつき
猟犬の傷を舐めては眠りけり 和歌山市 かじもと浩章
試着する鏡の中のシクラメン 調布市 佐藤悠紀子
膝かぶの囲める鏡開かな 秋田市 鈴木華奈子
着ぶくれて屋台に酒をこぼしけり 東大阪市 三村まさる
肩すぼめバス待つ人や寒雀 神戸市 川村充
番犬の役には立たず日向ぼこ 大牟田市 本田守親

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年2月16日

◎ 氷柱折り沸かすコーヒー避難小屋 東京 山口照男
【軽舟先生評】冬山の登山らしい。凍りついた稜線の風雪を逃れてほっとするひととき。

○ 咳きこんで肩胛骨を尖らする 国分寺市 越前春生
【軽舟先生評】つらそうに咳きこむ背中をさすってやる。若い頃見た結核患者の背中と重なって見えたか。

冬籠して雲呑を啜りけり 市原市 稲澤雷峯
工場の煙まつすぐ若菜摘む 岡山市 三好泥子
文机に祖父の筆筒日脚伸ぶ 横浜市 村上玲子
仕舞湯のまろき温もり雪催 名古屋市 山内基成
七草や朝餉のふたり老いふたり 四條畷市 植松徳延
縄文の顔の集まる夕焚火 久慈市 和城弘志
顔の泥拭へる騎手や冬木立 横浜市 宮本素子
戎笹さげて蕎麦屋の二階席 吹田市 坂口銀海
早逝の母の忌日や落椿 国分寺市 伊澤敬介
初座敷屯田兵の末として 苫小牧市 吉田京子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年2月8日

◎ 抱きついてマネキン運ぶ息白し 和歌山市 西山純子
【軽舟先生評】「抱きついて」がユーモラス。写生の目で街を歩けばこんな場面に出くわすこともあるのだ。

○ バーテンの鬢の剃り跡クリスマス 太宰府市 上村慶次
【軽舟先生評】もみあげを剃った跡が青々としている。鬢〔びん〕という古めかしい一語が現代に生かされた。

黄ばみたる夫の釣書寒すずめ 横浜市 村上玲子
赴任地へ夫を見送る四日かな 神戸市 松田薫
嚔や肩を寄せあふ喫煙所 名古屋市 山内基成
教会の椅子四人掛クリスマス さいたま市 大石誠
摩天楼見はるかす空初鴉 東京 四倉ハジメ
冬晴やぬた場すつかり乾きたる 大阪 池田壽夫
電球の切れたる廊下冬の月 彦根市 飯島白雪
中天の朝月うすき三日かな 姫路市 板谷繁
ポケットに押し込む希望冬銀河 長崎市 田中正和
ふる里や白鳥が来て母がゐて 桶川市 井上和枝

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年2月1日

◎ 全身に朝の青空冬木の芽 宗像市 梯寛
【軽舟先生評】冷たくはりつめた青空に向かって、気持ちよく背筋を伸ばす。作者の心身の充実が伝わる。

○ 妻と居る窓の曇りや雪催 下関市 堤ひろお
【軽舟先生評】居間の温もりに窓が曇る。それが妻と二人で生きている証のようにも思われる。

宮仕へ最後の年の日記果つ 青森市 小山内豊彦
砂浜の足跡にふる冬の雨 奈良市 伊藤隆
冬深し柱の罅に蛾の卵 東京 望月清彦
行年や粗熱とれてマドレーヌ 東京 氣多恵子
星辰を天にちりばめ初電車 由利本荘市 松山蕗州
日だまりに一軒の家笹子鳴く 明石市 岩田英二
ポケットにトリスと句帳梅探る 名古屋市 可知豊親
湯気盛んなる大寒の中華街 神奈川 中島やさか
駄菓子屋がコンビニになる十二月 宍粟市 宗平圭司
着ぶくれて二十世紀の資本主義 宇都宮市 大渕久幸

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年1月25日

◎ 読みさしの卓の朝刊暮早し 静岡市 生江八重子
【軽舟先生評】続きは後で読もうと家事に取りかかったら、もう日が暮れた。続きを読むのは寝る前か。

○ 煤逃げのパチンコ調子付いてをり 大阪市 佐竹三佳
【軽舟先生評】家の煤払を避けて外に出た退屈しのぎのパチンコが大当たり。日が暮れても帰るに帰れない。

船の灯は船の形にクリスマス 東大阪市 北埜裕巳
忘年や海の星座の瑞瑞し 市原市 稲澤雷峯
白妙の産着を干すや冬牡丹 山陽小野田市 平原廉清
渡り鳥仰ぎゐる間に舟の着く 可児市 金子嘉幸
ペン先は十四金や冬の星 鈴鹿市 岩口已年
餡パンで済ます師走の昼餉かな 米子市 永田富基子
板屋なる裸電球クリスマス 船橋市 村田敏行
吹かしをるピザ屋のバイク年の暮 横浜市 村上玲子
魚の目死して映せり冬の海 秋田市 西村靖孝
自転車に括るトロ箱年の暮 堺市 柞山敏樹

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年1月18日

◎ 冬ざれや一僕たりし古帽子 札幌市 村上紀夫
【軽舟先生評】ずっと人に使われて働いてきた。古帽子には自嘲とともにささやかな矜持も感じられる。

○ 枯園やアカペラの輪の女学生 大阪市 中岡草人
【軽舟先生評】伴奏もなく女声だけが美しい綾をなす。そこが枯園であることで若さがいっそうまばゆい。

心ここにあらずセーター編んでゐる 東京 喜納とし子
赤茶けし線路の小石冬の蝶 東京 神谷文子
捏ねをへし陶土一塊冬に入る 太宰府市 上村慶次
訴訟記録机上に積みてクリスマス 福岡市 三浦啓作
病院は年中無休冬灯 みやま市 紙田幻草
一合の酒ちびちびと鯨汁 神戸市 田代真一
足踏みに待つなり雪の停留所 秋田市 西村靖孝
冬至なり病院食に南瓜でて 可児市 羽貝昌夫
暁に仰ぐ明星秋気澄む 松山市 楠本武
朱欒〔ざぼん〕の黄映える朝日の庭先に 直方市 江本洋

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年1月11日

◎ 風花や同窓会の通知来る 我孫子市 加藤裕子
【軽舟先生評】なつかしさとかすかな戸惑い。風花の取り合わせから作者のそんな心情を想像する。

○ 山寒し手斧仕上げの太柱 神奈川 新井たか志
【軽舟先生評】山からしんしんと寒さが下りてくる。柱や梁の黒光りする旧家の長い冬籠りが始まる。

寒柝〔かんたく〕の去りて潮鳴り高まりぬ 銚子市 久保正司
旧交をあたためてゐる木の葉髪 周南市 木村しづを
後ろからセーターの肩小突かるる 水戸市 安方墨子
来客の多き一日や暖炉燃ゆ 豊中市 後藤慶子
レノン忌や冬の林檎を真二つ 宗像市 梯寛
掌にかをるハンドクリーム霜の花 横浜市 宮本素子
青空に風鳴る日なり枇杷咲きぬ 洲本市 小川吉祥子
年惜しむ駅北口の跨線橋 宇都宮市 大渕久幸
子守柿子熊は山に帰りしか 津市 田山はじめ
金星のきらめき出でし枯野かな 羽生市 小菅純一

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2016年1月4日

◎ しぐるるや愛を求むる子猫の目 尼崎市 松井博介
【軽舟先生評】こう思うのは作者自身が愛を求めていたからではないか。濡れた子猫に自分の姿を見た。

○ 癌切つて冬日のごとき粥の味 宇佐市 安倍昭一郎
【軽舟先生評】胃潰瘍の夏目漱石は「膓に春滴るや粥の味」と詠んだ。どうも違うな、作者はそう思った。

船宿の船出払つて冬日出づ 日高市 佐藤隆夫
嫁がせて楽になりたる炬燵かな 松本市 太田明美
ぽんぽん蒸気島に初刷下しけり 府中市 天地わたる
荒縄の結び目の立つ雪囲ひ 国分寺市 越前春生
短日や世間話もせず帰る 鴨川市 冨川康雄
月高し外湯をめぐる下駄の音 神奈川 大久保武
口中の飴玉ぬくし枯野原 神戸市 松田薫
ホットミルク冷める早さや今朝の冬 宇部市 中村有爲子
忘れゆくことの幸せ鯨汁 大垣市 七種年男
工場を見下ろす丘も蜜柑山 防府市 倉重遥代