小川軽舟 | 毎日俳壇 2019年

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年07月29日

◎ 水打つて口開けの客待ちにけり 東大阪市 三村まさる
【軽舟先生評】日暮には早いが、そろそろ常連が飲みに来る頃。こんな店の暖簾を真っ先に潜(くぐ)ってみたい。

○ 八月の空なんどでも晴れるなり 四日市市 伊藤衒叟
【軽舟先生評】「八月の空」は敗戦の日の空でもある。挫けず前を向いて歩んだ日本の軌跡を思う。

曼荼羅にこの世の黴の匂ひかな 熊本市 加藤いろは
父と子の有機農業雨蛙 四條畷市 植松徳延
呼鈴に手を拭き出づる蝉時雨 和歌山市 西山純子
絵馬殿を涼しき風の通りけり みやま市 紙田幻草
晩涼の柱や夫の忌を修す 小金井市 阿部けい子
入梅や弁当二個の夜勤の子 大阪市 山田喜美
起重機を休ませてをり三尺寝 中間市 長田礼二郎
梅漬けて食も眠りも大切に 龍ケ崎市 白取節子
密林の真ん中めくや梅雨の部屋 秋田市 鈴木華奈子
どこまでも入道雲の下を行く 戸田市 手島百合子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年07月23日

◎ 道頓忌ぎらぎらと陽のしづみけり 四日市市 伊藤衒叟
【軽舟先生評】道頓堀に名を残す大阪商人安井道頓。今の道頓堀の賑わいをどう眺めるだろうか。

○ 良き友に佳き妻のあり夏座敷 福岡市 鶴田独狐
【軽舟先生評】友人の歓待もさることながら、気立てのよい妻のもてなしにすっかり心が和んだようだ。

正面の海より月やほととぎす 津市 田山はじめ
片陰に自販機肩を並べけり 福岡市 林〓
料理屋の灯る小路や梅雨に入る 豊田市 小澤光洋
遊船に乗らずかもめを見て帰る 加古川市 中村立身
噴水や声のゆきあふ午後六時 東京 磯野絵璃奈
白はえや廃線駆ける子と仔犬 東京 山下留美子
早朝の国道広し月見草 吹田市 三島あきこ
白靴やダンスホールの暗き隅 東久留米市 夏目あたる
病棟に寄りそふ森や青葉木菟〔あおばずく〕 我孫子市 桑原真喜子
横丁の暖簾なつかし夕薄暑 袖ケ浦市 浜野まさる

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年07月15日

◎ 新玉ねぎさつとさらして昼の酒 高山市 直井照男
【軽舟先生評】気取らない酒が楽しそう。凝った肴は要らない。旬の素材そのものの味わいが一番だ。

○ 麦秋や流離の父の写生帖 伊豆の国市 山岸文明
【軽舟先生評】家族にとって、良き父とは言い難かった。それでも、その写生帖を開くと無性に懐かしい。

半ドンの昭和は遠しソーダ水 岡山市 三好泥子
炭都なる昔ありけりメーデー歌 嘉麻市 堺成美
墓に置くゴルフボールと缶ビール 東京 喜納とし子
夏芝に六法全書枕とす 青森市 天童光宏
胸中に遺書の推敲草むしり 宇部市 谷藤弘子
老鶯に小雨の煙る古刹かな 尼崎市 松井博介
梅雨廃墟有刺鉄線シャツを裂く 東京 ホヤ栄一
短夜や会議の資料枕辺に 志木市 谷村康志
籐椅子や森の上ゆく飛行船 横浜市 半田岬
あへぎ来て寄りかかりのむ石〔いわ〕清水 東京 松崎夏子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年07月08日

◎ 星涼し西へ東へ夜行バス 北本市 萩原行博
【軽舟先生評】バスターミナルから全国各地へ夜行バスが発つ。「星涼し」に各々の旅への期待がうかがえる。

○ 万緑に小鳥のごとく目覚めけり 坂戸市 浅野安司
【軽舟先生評】あふれんばかりの自然の生命力の中で朝を迎えた。健やかに眠り、健やかに目覚めたのだ。

何処にもゆかぬ暮しや額の花 柏崎市 五十嵐絹代
行者道四通八達若葉風 香芝市 矢野達生
創業は文化元年麻のれん 愛西市 小川弘
ジーンズの膝の破れや巴里祭 松本市 上月くるを
やはらかき食パンの耳青嵐 郡山市 佐藤祥子
一湾を眺め佇ちをる白日傘 名古屋市 浅井清比古
日誌書くホテルの窓辺遠花火 東京 野上卓
接岸の練習船や風薫る 豊中市 亀岡和子
筍や山の背びれは青かりき 市川市 吉住威典
夢語る子の頬赤きキャンプの夜 大和市 河村翠

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年07月01日

◎ 武勇伝無き人生や冷奴 かほく市 峠谷清広
【軽舟先生評】冷奴をつつきながら我が人生を振り返る。これでよかったのか。これでよかったのだ。

○ まあまあと割つてをさめる団扇かな 由利本荘市 松山蕗州
【軽舟先生評】一悶着あると決まって仲裁に入る男。団扇がその場面を彷彿とさせる小道具だ。

新宿の雑踏恋し夕薄暑 奈良市 上田秋霜
湯治場の外の憚り月涼し 栃木 小林たけし
薔薇の門行き交ふ誰も憂ひなし 深谷市 酒井清次
五十年経ちて集ひぬ額の花 八街市 山本淑夫
梅雨めきて夫の在宅勤務かな 横浜市 村上玲子
梅雨晴間まづ子のシーツ干しにけり 松戸市 花嶋八重子
溜まりたる録画を流すビールかな 水戸市 砂金祐年
砂鉄踏む稲村ケ崎義貞忌 鎌倉市 高橋暢
病室に吊す風鈴風を待つ 佐倉市 小池成功
濯ぎたる牛乳瓶に姫女菀〔ひめじょおん〕 三重 瀬川令子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年06月24日

◎ 蛇干して巻きて積みたる夜店かな 川崎市 折戸洋
【軽舟先生評】海蛇を売る沖縄の夜店だろうか。むっと匂い立つような周囲の熱気も感じられる。

○ 向きむきの山百合匂ふ峠かな 厚木市 石井修
【軽舟先生評】樹林の道をたどって峠に着いた。「向きむきの」が山百合の大きな花らしい写生だ。

キッチンカー並ぶ広場や風薫る 東京 関口昭男
矢車の一日雨に鳴り止まず 町田市 枝澤聖文
雨漏りを受けるバケツや桜桃忌 玉野市 松本真麻
校庭の白線しるき立夏かな 福岡市 礒邉孝子
さらさらの母の白髪沙羅の花 大阪市 佐竹三佳
香水や朝から雨の月曜日 津市 渡邊健治
残業に白シャツの袖まくりけり 四日市市 伊藤衒叟
目薬の膨らみ落つる若葉かな 東京 荻原梗花
産土〔うぶすな〕のさざ波の立つ代田かな 新庄市 岸啓二
図書館の自転車置場灼けてをり 川崎市 中山美都子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年06月17日

◎ 蝉時雨座敷の仕切はらひけり 東京 氣多恵子
【軽舟先生評】襖や障子を外して風通しをよくする。昔ながらの日本家屋の夏の風情がなつかしい。

○ 玉砂利に馬糞の乾く祭かな 奈良市 奥良彦
【軽舟先生評】季語の祭は、本来は京都の葵祭をさす。参道に落ちた馬糞さえ、どことなく雅びに見える。

迷ひ蟻冷たき夜のリノリウム 下野市 石井光
六月や古き映画に雨が降り 神奈川 中島やさか
再会の握手は両手風光る 東京 齋木百合子
木苺や主峰は未だ雲中に 東京 山口照男
郭公の鳴くは湖より林より 新居浜市 正岡六衛
地味といふ存在感や柿の花 白井市 毘舍利道弘
三日出て四日の休み著莪〔しゃが〕の花 古賀市 大野兼司
何もかも忘れてゐたる蟻の列 可児市 金子嘉幸
白壁の町や辻より初つばめ 明石市 増田良子
とりどりのランドセル行く麦の秋 我孫子市 桑原真喜子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年06月11日

◎ 時鳥耳にしてまた寝落ちけり 市原市 稲澤雷峯
【軽舟先生評】時鳥は死出の山から飛んで来るという。一見健やかな句に見えて、暗示するところは深い。

〇 古書店の若き主や街薄暑 芦屋市 水越久哉
【軽舟先生評】「若き主」に意外性がある。最近店を開いたのだろう。この街に根づくよう願う。

大寺の骨董市や樟若葉 長野市 小林明男
若葉風片付けて家軽くなる 神戸市 松田薫
母の日や母の記憶の中の我 我孫子市 矢澤準二
山葵〔わさび〕沢暮れて水音ばかりなり 奈良市 斎藤利明
子と読みし絵本の修理古茶新茶 真岡市 下和田真知子
孤独死の部屋の風鈴鳴り通し 藤沢市 田中修
托鉢の僧濡るるまま花の雨 高萩市 小林紀彦
はつなつのひかうき雲や海近く ドイツ 月の道馨子
緑差す雨の匂ひを感じつつ 桜井市 冬見正剣
商談後ガッツポーズや夏近し 東京 山下留美子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年06月03日

◎ 老人が老人の杖著莪〔しゃが〕の花 日高市 落合清子
【軽舟先生評】老老介護の句と読んだ。相手の杖として生きる。足許の著莪の花の控え目な風情がよい。

〇 上着脱ぎかつ丼頼む薄暑かな 土浦市 今泉準一
【軽舟先生評】営業の出先で腹ごしらえに立ち寄った店か。いかにもかつ丼、いかにも薄暑である。

わらべうた止みて亀鳴く夕まぐれ 東村山市 竹内恵美
子燕や売りに出されし家の軒 伊豆の国市 山岸文明
桜蘂降る学食の券売機 和歌山市 西山純子
あぢさゐや足の爪剪るそのうなじ 川越市 益子さとし
すつぴんにリップスティックみどりの日 千葉市 木村史子
着ぐるみの頭を取り麦湯飲み干せり 長野市 中里とも子
夏めくやファッション雑誌めくりつつ 京都市 古川麻美子
筍を湯掻く煙や国境 北九州市 荒木文生
色白の腕を伸ばして蓴〔ぬなは〕舟 葛城市 山本啓
いきいきと花散る午後のにはたづみ 前橋市 糸井孝

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年05月27日

◎ 噴煙の今日また高き暮春かな 大分市 首藤勝二
【軽舟先生評】調べが朗々としていて気分がよい。火山に近い暮らしを詠って大振りの句になった。

〇 採血に叩く静脈走り梅雨 東京 吉田かずや
【軽舟先生評】こんな時にも俳句の素材を求めて目を働かせている。その姿勢がつかみ取った一句。

パンジーやチャイム流るる新学期 神戸市 田代真一
夜桜や芸者幇間〔ほうかん〕屋形船 横浜市 守安雄介
手相見の上目遣ひや火取虫 北本市 萩原行博
朧なるままに昇れり望〔もち〕の月 葛城市 八木誠
うまごやし足投げ出して遊子めく 豊田市 内山幸子
捨印を捺して契約ヒヤシンス 東京 関口昭男
鶯や鄙〔ひな〕の河原のごろた石 京都市 小川舟治
見返れば竹生島あり鍋乙女 兵庫 小林恕水
志立てし日遠く目刺し焼く 藤沢市 田中修
スカートの膝伸びやかに春の朝 名古屋市 辻村俊策

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年05月20日

◎ どうしてもそつぽ向きたり黄水仙 秋田市 鈴木華奈子
【軽舟先生評】花瓶に挿したもののバランスが悪いらしい。擬人化の要素も加わって黄水仙らしく描けた。

夏きざす商店街の店先も 土浦市 今泉準一
【軽舟先生評】街路樹も人々の服装も、そして店先の品物も夏めいてきた。日常にふと気づく季節感。

たんぽぽの絮〔わた〕ほぐれんと風を待つ あま市 野田朱美
花水木また花水木夕間暮 横浜市 延沢好子
竹皮のでつち羊羹春障子 吹田市 御前保子
脛美しき白馬の女官賀茂祭 伊万里市 田中秋子
図書館で借りし歌集や春の雨 我孫子市 矢澤準二
田蛙や暗記カードをめくる夜 芦屋市 瀬々英雄
図書館の踊り場の窓風薫る 流山市 小林紀彦
居酒屋に空瓶ならぶ遅日かな 四日市市 伊藤衒叟
虎はみな寝相悪しや春暑し 東大阪市 三村まさる
若葉雨日本画展は人少な 北九州市 一枝梨花

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年05月13日

◎ 晩春や二人で選ぶ妻の杖 平塚市 藤森弘上
【軽舟先生評】夫と妻、二人で妻の杖を選び、二人でまた歩けるようになった。季語の晩春が味わい深い。

○ 寡夫集ふ料理教室若布和(わかめあえ) 秋田市 神成石男
【軽舟先生評】趣味の「男の料理」ではないのだ。ごく日常的な若布和であるのがほほえましい。

踏切のすぐに石段豆の花 東京 氣多恵子
夫と子のロードバイクや春日差す 周南市 藤井香子
栄転を見送るホームしやぼん玉 東久留米市 夏目あたる
死ぬまでは続く未来や風光る 青森市 小山内豊彦
あふぎ飲む薬缶の水や田草取 須賀川市 関根邦洋
畑を打つ妻は夕日にまぎれけり 岡崎市 矢野久造
リラ咲くや運河に沿うて石畳 東京 喜納とし子
閑散の古書店通り黄砂降る 愛西市 坂元二男
図書館へつづく坂道花水木 東久留米市 矢作輝
散る花を見上げる杖の二人かな 天理市 上田美智子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年05月06日

◎ 路地裏の猫と飯屋と新社員 千葉市 新原藍
【軽舟先生評】路地裏の店で昼食を終え、猫にしゃがみこんで話しかける。心優しい新社員が目に浮かんだ。

○ 教会の牧師転勤鳥雲に 東京 松岡正治
【軽舟先生評】どこか地方の教会に異動になったか。牧師もまた勤め人なのだと気づかされる。

歩きつつ振り向きつつの花見かな 北九州市 岡田成司
地球儀の北極海に春の塵 諫早市 麻生勝行
職安に並ぶ端末梅雨寒し 玉野市 松本真麻
天辺〔てっぺん〕の見えぬ大杉亀鳴けり 横浜市 竹村清繁
赤子泣く二階の窓に燕来る 千葉 阿部尚子
塀越しの内緒話や雪柳 米子市 永田富基子
踏青の醍醐寺迄の一里かな 柏市 高橋壽子
草田男も遠くなりけり春の雪 八尾市 貝田恭仁子
オムレツの出来は上々春の雲 三条市 高橋実子
子の声の遠くひびくや風光る 磐田市 鈴木きよこ

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年04月29日

◎ 先頭の子遍路の鈴よくひびく 加古川市 中村立身
【軽舟先生評】歩き疲れた大人を尻目に、元気いっぱいの遍路姿の子ども。よい思い出が出来ることだろう。

○ 花冷やバス停の名は昭和橋 伊勢市 奥田豊
【軽舟先生評】平成が終り昭和はいよいよ遠ざかる。この昭和橋もいつしかバス停に名を残すのみ。

点滴の片手は胸に入彼岸 国分寺市 越前春生
県人会旗振る上野花見会 青森市 天童光宏
青空のどこがてつぺん揚雲雀 北九州市 宮上博文
たばこ屋の消えし角にも東風〔こち〕吹けり 大阪市 菊田知和
だだこねて動かぬ犬や春の雨 東京 石川昇
春の水桶に満たして顔洗ふ 深谷市 酒井清次
ビル街の更地に春の闇深し 小諸市 小泉博夫
春の海シフォンケーキはらくだ色 ドイツ 月の道馨子
清明や伏流水に光る砂 香芝市 河野嘉雄
独居にも慣れたる夕餉五加木〔うこぎ〕飯 島根 鳥上村生

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年04月23日

◎ 春愁やA定食の玉子焼 志木市 谷村康志
【軽舟先生評】社員食堂の光景だと読んだ。気分は少々へこんでいるが、玉子焼の色の明るさに慰められる。

○ 市役所は港の際や春日傘 松本市 上月くるを
【軽舟先生評】港に面して市役所がある。何かの手続きに来た春日傘の女性を見せて、風景が息づいた。

身近なる人に文書く初燕 大分市 高柳和弘
春月や解体中のビルの闇 大阪市 山田喜美
夕星の軒に休らふ初燕 千葉市 高橋信子
春寒し母なき家に時計打つ 東京 江川文江
日輪の川面に映ゆる燕かな 堺市 柞山敏樹
蒲公英〔たんぽぽ〕の絮〔わた〕よそゆきの家族連れ 千葉市 木村史子
投薬の減りしが嬉し桜どき 神奈川 新井たか志
蕗味噌や女将の小さき依怙〔えこ〕贔屓〔ひいき〕 東京 種谷良二
初つばめ吃水線をきたりけり 福岡市 鶴田独狐
揚雲雀一人で生くる勇気湧く 神戸市 松元一師

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年04月16日

◎ 霞草引き立て役が似合ひけり 京都市 古川麻美子
【軽舟先生評】主役より引き立て役、それをよしとする作者の生き方なのだろう。花束の霞草のように。

○ 人生に雨の日多し桃の花 上尾市 中野博夫
【軽舟先生評】人生の大事な日に限って今日のように雨が降る。それでも桃の花の明るさが祝福してくれる。

囀や祈りのことば終へしとき 真岡市 下和田真知子
町名に職名残る春灯 さいたま市 根岸青子
退職の辞令一枚鳥雲に 青森市 小山内豊彦
鳥雲に人は故郷へ帰らざる 長崎市 田中正和
惣菜の軽き包みや朧月 大阪市 佐竹三佳
いつ果てん通し稽古の日永かな 由利本荘市 松山蕗州
人を待つ茶房の窓にヒヤシンス 神戸市 細井朔
日曜の教会の鐘うららけし 流山市 小林紀彦
尼寺へ駆け上がる下駄落椿 大阪 道畑日出子
春雨や漫然として飯食らふ 川越市 須田聡男

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年04月09日

◎ 人間の真ン中にへそ山笑ふ 塩尻市 神戸千寛
【軽舟先生評】「人間の真ン中」と言い切った勢いがよい。その臍が作者にとっては世界の中心でもある。

○ 雛の間に川の字に寝る親子かな 羽生市 小菅純一
【軽舟先生評】片隅に雛を飾った部屋に蒲団を並べて寝る。たとえ裕福でなくとも幸せな子どもだ。

みちのくの山脈いく重西行忌 吹田市 末岡たかし
啓蟄やすずめ畑をはねまはる 防府市 倉重遥代
あたたかや畳のきしむ湯治宿 みやま市 紙田幻草
住吉に手数入〔でずい〕り見たり浪花場所 大阪 池田壽夫
南禅寺前の別邸おぼろ月 東久留米市 夏目あたる
春寒や小籠包の熱き汁 東京 片岡まさき
葉牡丹や小さな駅のロータリー 東京 関口昭男
葬列に幼子の声春の雨 我孫子市 新井美枝子
滑り台春風受けて真つ直ぐに 伊万里市 坂本泰子
リハビリの窓辺静けき沈丁花 東京 内田恵子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年04月01日

◎ 音のみな我に集まり朧の夜 稲沢市 杉山一川
【軽舟先生評】静かな朧夜。遠くの音もよく聞こえる。それをこう言って世界を自分に引き寄せた。

○ ひと仕事して散歩して春夕焼 秋田市 西村靖孝
【軽舟先生評】裕福だとは言えなくとも、マイペースで生きていけるのが一番。空を見上げて家路につく。

北へ鳥帰り北向く風見鶏 和歌山市 山田重昭
目覚めれば元の老人春の雨 大分市 猪原アヤ子
幟立て臓物〔もつ〕焙る店春の暮 東京 四倉ハジメ
あばら家に春を待ちつつ老いにけり 愛西市 小川弘
蛇穴を出づ忘れたきことばかり 平塚市 藤森弘上
囀〔さえずり〕をしづめて森の昏れゆけり 千葉市 高橋信子
眼前に父の造林彼岸前 四條畷市 植松徳延
北国へ異動の辞令鳥雲に 国立市 新保徳泰
二月の雪父死にし日をおもひだす 東京 伊藤弘通
啓蟄や郊外電車人まばら 藤井寺市 藤井慶子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年03月25日

◎ 一日に消えし木の家ミモザ咲く 東京 たなか礼
【軽舟先生評】一戸建ての家の解体はあっけない。ミモザの花の明るさが、その家の暮らしの面影を伝える。

〇 菜の花や嘉兵衛の船の見え隠れ 神戸市 大岩正彦
【軽舟先生評】世界を向こうに回した廻船問屋、高田屋嘉兵衛。菜の花ののどかさが海に幻を見せたか。

改札に駅員置かずうららけし 国分寺市 伊澤敬介
決算期休めぬ朝の生姜湯 千葉市 中嶋邦子
終電の膝の花束春めけり 横浜市 村上玲子
仏壇に合格通知あたたかし 京都市 古川麻美子
町村は市に呑み込まれ春炬燵 香芝市 矢野達生
病棟に絵本の書架やヒヤシンス 長野市 中里とも子
雨の音雨垂れの音春めきし みやま市 紙田幻草
あたたかし昆虫館に女の子 東京 穂曽谷洋
囀〔さえずり〕に障子明るき朝〔あした〕かな 東京 井上茅
黒松の亀甲厚く寒の入 京都市 前田成規

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年03月18日

◎ 啓蟄や地下鉄出口十二箇所 一宮市 渡辺邦晴
【軽舟先生評】それぞれの出口から行き先を目指す人々がわらわらとあふれ出す。啓蟄を配したのが巧み。

〇 終点の出町柳は春の雪 東久留米市 矢作輝
【軽舟先生評】大阪で京阪電車に乗った時は雨だったのだろう。地名が生かされて風情のある句になった。

春めくや釣銭落す募金箱 横浜市 村上玲子
裏山に梟〔ふくろう〕の鳴く火宅かな 市原市 稲澤雷峯
寺町の小路小路の余寒かな 多摩市 阿部茂助
バイクの子まだ帰り来ず雪降れり 日高市 落合清子
バス停の灯影に小さき雪だるま 京都市 市川俊枝
田一枚蝌蚪〔かと〕の国又蝌蚪の国 津市 田山はじめ
集まれば政治のはなし日向ぼこ 東京 辺見狐音
春風やちひさき象のすべり台 四日市市 伊藤衒叟
淡雪や井桁に積める窯の薪 桶川市 藤田木綿
寒月に照る倫敦の石畳 下野市 石井光

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年03月11日

◎ 遺句集に自選の十句鳥雲に 吹田市 末岡たかし
【軽舟先生評】自選十句まで用意したのに遺句集になってしまった。鳥たちがその魂を天に運んだか。

〇 麗らかや骨董市の欠け茶碗 可児市 羽貝昌夫
【軽舟先生評】こんなものまで売っているのかと楽しい気分になる。ためしにちょっと値切ってみるか。

本閉ぢて障子明るき日暮かな 町田市 友野瞳
向き合うてポタージュスープ春めきぬ 姫路市 板谷繁
新しきノートの角や春立てり 秋田市 鈴木華奈子
元号を愛する国や初暦 新潟市 鍋谷彰子
曙の風がうがうと春立ちぬ 小林市 牧野尚幸
暖かな雨の降りたる朝の畑 伊勢市 奥田豊
芽起しの夜来の雨のにほひかな 真岡市 下和田真知子
立春やぽんぽん船に目の覚めて 豊田市 内山幸子
春寒し家族連れたる遊園地 神戸市 跡治理彦
ちんぴらのやうに睥睨〔へいげい〕寒烏 かほく市 峠谷清広

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年03月05日

◎ カフェらしき内装工事春近し 神戸市 松田薫
【軽舟先生評】今度の店はカフェになるらしい。内装工事という素っ気ない言葉が生かされた。

〇 白梅や天神下の縄のれん 川越市 峰尾雅彦
【軽舟先生評】湯島天神あたりだろうか。参拝よりも、その後の一杯が楽しみで来たようだ。

親方の息子自慢や初仕事 宮崎市 境雅子
退職し普段着の朝山笑ふ 古賀市 大野兼司
教会の扉小さく菫咲く 熊本市 江藤明美
素戔嗚〔すさのお〕の奇相火に映ゆ里神楽 新座市 菊地良治
人形の眠る木椅子や百千鳥 豊中市 後藤慶子
顔撫でて顴骨〔かんこつ〕高し冬日和 愛知 平松京師
街灯の裸電球春遠し 福知山市 森井敏行
中くぼむ典座〔てんぞ〕の砥石山笑ふ 田辺市 川口修
公園の遊具の赤や冬深し 津市 渡邊健治
日のあたる石に止まりて冬の蝶 さぬき市 西村たみお

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年02月25日

◎ 鉤の手に曲る縁側梅白し 東京 齋木百合子
【軽舟先生評】「鉤の手に曲る」で見えない先の春の気分も伝わる。古きよき日本家屋のたたずまい。

〇 缶詰のアテの昼酒春隣 水戸市 砂金祐年
【軽舟先生評】缶詰をパカッと開けて酒の肴にする。ベンチでワンカップという気分に春も近い。

探梅や子どもの遊ぶ無人駅 土浦市 今泉準一
床屋より角刈りの出で春隣 東久留米市 夏目あたる
電気屋の按摩機にゐる寒九〔かんく〕かな 横浜市 村上玲子
母が煮る魚の匂ひ日脚伸ぶ かほく市 峠谷清広
叡山の風荒ぶるや大根焚 奈良市 斎藤利明
春寒し路上ライブの人疎ら 東久留米市 矢作輝
ゆつくりと流るる雲や春隣 尼崎市 松井博介
仕事場へ向ふ細道冬椿 堺市 柞山敏樹
外野へもシートノックよ日脚伸ぶ 徳島市 長山敦彦
ジャンパーをさつとひつかけ初詣 長崎市 鶴田鴻己

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年02月18日

◎ 冬枯やニュースにニュース押しやられ 横浜市 延沢好子
【軽舟先生評】電光ニュースか。ワイドショーの話題が目まぐるしく入れ替わる世相と読んでもおもしろい。

〇 梅の花見上げ日本語フランス語 由利本荘市 松山蕗州
【軽舟先生評】外国人観光客が増えた。日本語とフランス語の入り交じるのも早春らしい気分。

老妻と枕並べて風邪に臥す 羽生市 小菅純一
手に取りて本しつとりと雪の昼 秋田市 西村靖孝
新年会果てて屋台のコップ酒 高山市 直井照男
春立つや河川敷にて草野球 常滑市 沢田正司
早春や縁に置かれし父の杖 鴻巣市 菅野捷子
探梅や電車とバスを乗り継いで 多摩市 阿部茂助
すれ違ふ列車上りは雪まみれ 苫小牧市 山口昭悦
神域の杜に音無し冬日差す 千葉市 中嶋邦子
朝刊のインクの匂ひ雪の朝 米原市 山家英一郎
背後より襲ひかかりし寒さかな 静岡 大野千賀子

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年02月11日

◎ 寒鯉は水の底にて髭伸ばす 長野市 小林明男
【軽舟先生評】水底でただじっとしているわけではない。髭を伸ばしているのだという発想がユーモラス。

〇 冬波やサーファー沖へもがきをり 高萩市 小林紀彦
【軽舟先生評】波に押し戻されながら両腕で漕ぎ出す。浜から見ると、ただもがいているだけに見える。

路地裏のゆふぐれ早き手毬かな 東京 神谷文子
赤提灯のぞいてみるか鳥総松〔とぶさまつ〕 志木市 谷村康志
余所見する犬を真中に初写真 町田市 枝澤聖文
松過ぎの肩を寄せ合ひ山ふたつ 大村市 森宏二
聖樹立つ小児病棟闇深し 大牟田市 本田守親
立ち呑みの常連コート脱がぬまま 東京 種谷良二
寒紅を引きて行かねばならぬ用 鯖江市 大森弘美
歯磨き粉絞ればにゆつと冬の山 八幡浜市 三浦将崇
寒鴉いつせいに発つ雑居ビル 東京 菊田知和
坂道に冬薔薇多き港町 枚方市 中村輝雄

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年02月04日

◎ 白鳥のつがひ天皇誕生日 福岡市 林〓
【軽舟先生評】つがいの白鳥の姿に、ゆたかな白髪となった天皇皇后両陛下の今が重なって見えたのだ。

〇 熱の子を掻き抱くなり雪女 川越市 益子さとし
【軽舟先生評】シューベルトの楽曲で有名なゲーテの「魔王」を日本の民話に翻案した趣。

耳に髪挟みて薺〔なずな〕打ちにけり 大阪市 佐竹三佳
不和のまま父の訃報や鵙〔もず〕の冬 沼津市 川井大次郎
熱燗や退職までの一ケ月 古賀市 大野兼司
立春や一番電車橋渡る 堺市 成山清司
寮生の一人の配る林檎かな 東京 小栗しづゑ
双鶴の掛軸に替へ小〔こ〕晦日〔つごもり〕 奈良市 渡部弘道
めでたさや家紋うすれし雑煮椀 和歌山市 かじもと浩章
初春の竹の新垣匂ひ立つ 龍ケ崎市 本谷英基
屋台での原発論議燗熱く 東大阪市 三村まさる
玄関の花に水遣る五日かな 安城市 築山宏一

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年01月28日

◎ 火のごとき寒紅を引く京女 下関市 石田健
【軽舟先生評】「火のごとき」は寒紅の色だが、その女の気性でもあろう。うかつに触れると火傷しそうだ。

○ アンテナの働く屋根や日脚伸ぶ 東京 木内百合子
【軽舟先生評】ただ突っ立っているだけに見えるが、ちゃんと電波を捉えて働いている。その発見が楽しい。

ビル立派門松立派丸の内 東京 喜納とし子
ふつくらと弥生の壺や冬あたたか 熊本市 加藤いろは
先斗〔ぽんと〕町〔ちょう〕抜けて橋詰日脚伸ぶ 京都市 小川舟治
村中が一気に影絵寒の月 坂戸市 浅野安司
顔上げず頷くのみや夜鷹蕎麦 北本市 萩原行摶
息白く駅へ走れり女子生徒 相模原市 はやし央
枕辺の衣擦れの音や初あかり 須賀川市 関根邦洋
コンクリの割れ目がいいと冬菫〔すみれ〕 高砂市 今井慎一
音もなく星の煌〔きら〕めく大晦日 さいたま市 生田治郎
声あげて笑ふ赤子や春隣 多摩市 阿部茂助

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年01月21日

◎ 冬の海大河を呑みて荒れゐたり 市原市 稲澤雷峯
【軽舟先生評】「大河を呑みて」に迫力がある。河口を呑み込む勢いで続々と荒波が押し寄せるのだ。

○ 加湿器と辞書とノートと空腹と 神戸市 松田薫
【軽舟先生評】このように羅列する場合、一つ意外なものがあると効果的。この句は「空腹」がそれ。

風花や言葉重たき父の文 東久留米市 矢作輝
老いてなほ無芸大食落葉掃く 藤沢市 田中修
初髪の寄りて華やぐ駅舎かな 彦根市 松本勝幸
海豹〔あざらし〕の赫〔かがや〕く眼〔まなこ〕冬の海 名古屋市 加藤國基
松蔭に琴電二両冬晴るる 松原市 平畑和子
柊の花や病後の二歩三歩 名古屋市 鈴木幸絵
反骨の血筋脈々冬桜 出水市 清水昌子
寒雷や沖に数多の密漁船 東京 石川昇
ぶつ切りの魚の身と腸〔わた〕雪催〔ゆきもよい〕 青森市 天童光宏
小春日や意外と重きハーモニカ 塩尻市 神戸千寛

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年01月14日

◎ 鳰(かいつぶり)思はぬ方に月が出て 福岡市 三十田燦
【軽舟先生評】潜った鳰は思わぬ方の水面に飛び出す。その習性がこの句の月の描写の隠し味になっている。

○ 落葉蹴る商談からの帰り道 志木市 谷村康志
【軽舟先生評】商談の結果はどうだったのか。どうもうまくいかなかったように思えるが……。

乗換を急ぐ人波年の暮 堺市 柞山敏樹
底冷えの京に餡かけ饂飩かな 寝屋川市 数藤茂
冬晴や一竿で足る濯ぎ物 奈良市 石田昇己
立冬や飛行機雲の幾筋も あま市 野田朱美
風花に差し伸べし手を嫌はるる 取手市 杉野寵児
空地増え町が変はつて冬が来る 倉敷市 瀬戸初音
師走なる一番星と三日月と 東大阪市 北埜裕巳
木造の山の教会小鳥くる 神戸市 細井朔
熱燗の直ぐに手酌となりにけり 上尾市 中野博夫
一連の凧や日当る雪の山 堺市 おもそ峡人

◆ 毎日俳壇 小川軽舟・選 2019年01月07日

◎ 野良猫の背骨浮き出づ冬の雨 北九州市 岡田成司
【軽舟先生評】
「背骨浮き出づ」が非情な写生だ。その猫を救ってやることのできない無念が雨に滲む。

○ 航跡の消えぬ海峡冬日和 古賀市 大野兼司
【軽舟先生評】
小高い丘から海峡を見下ろす。今日は波も穏やかで、船の曳く長い航跡がまぶしい。

早旦の氏子総出の落葉掃き 前橋市 矢端桃園
ほの甘き切手の糊や漱石忌 東京 吉田かずや
官庁の安き食堂寒卵 東京 関口昭男
眠るものみんな眠らせ山眠る 平塚市 藤森弘上
木枯や休むこと無く観覧車 福岡市 林〓
雲ひとつ風ひとつなき冬の空 高知 渡辺哲也
日射し追ひ移す花鉢十二月 由利本荘市 松山蕗州
初雪や一杯分の豆を挽く 東京 氣多恵子
夕映えの五層の天守鳥渡る 横浜市 竹村清繁
波音のしづもる浦や冬銀河 千葉市 高橋信子